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ジェンダーとは、社会や文化、歴史といった条件のもとで形成されていく、性の役割によって生まれる性差のことです。
LGBTQとは、性的マイノリティの人たちを表す言葉で、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアルの性的指向と、生まれたときに割り当てられた性と性自認が異なるトランスジェンダー、Qはクィア(性的マイノリティ全体を含む呼び名)もしくは、クエスチョニング(特定の性のあり方の枠に属さない人、分からない人)を表します。他にも様々な性のあり方が存在します。
フェミニズムとは、女性の権利拡大や性差別からの解放を目指す思想や運動です。
「女の子はおしとやかに」「男の子は泣かない」などのジェンダーロール(性役割)や、LGBTQへの偏見、差別は社会のあらゆる所に存在し、子どもたちにも影響していますが、このページでは読むとそんな性役割から解放されたり、性のあり方に悩む人の小さな救いとなったり、無自覚な差別に気づくきっかけとなるような、誰もが過ごしやすい社会へつながる絵本を紹介します。
1.『ぼくのポーポがこいをした』
(岩崎書店)作/村田沙耶香、絵/米増由香、編/瀧井朝世
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『ぼくのポーポがこいをした』は、“ぼく”のおばあちゃんと、ぬいぐるみのポーポとが結婚するまでを描いた絵本です。クィアな物語と解釈できる作品で、語り手の“ぼく”は、ぬいぐるみのポーポとおばあちゃんの恋に強く反対し、感情を露わにします。
一方で“ぼく”には二人の母親がいます。作中、同性カップルの二人の母が当たり前に存在しており、おばあちゃんとぬいぐるみの結婚に疑問を持つ“ぼく”も、特に批判も言及もしません。
少年は、ぬいぐるみのポーポとおばあちゃんの結婚式での誓いのキスを見て、祝福に転じます。“ぼく”が信じられなかったことを、二人の母を見るように受け入れる様子は、ジェンダーやほかの多くの古い価値観を改める一歩目となるはずです。
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2.『きょうりゅうレディ』
(出版ワークス)作/リンダ・スキアース、絵/マルタ・アルバレス・ミゲンス、訳/まえざわあきえ
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『きょうりゅうレディ』は、実在した女性の物語で、200年ほど前のイギリスで、重要な化石を多く発見したメアリー・アニングの伝記絵本です。
メアリーは様々な化石を発見し、その数々は世界中の学者に広く知られますが、一方でメアリーの名前を口にするものはなく、またメアリーは地質学会にも入れてもらえず、大学で学ぶことも教えることも叶いませんでした。その残酷ともいえる当時の性差別が丁寧に描かれています。
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3.『ジュリアンはマーメイド』
(サウザンブックス社)作/ジェシカ・ラブ、訳/横山和江
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『ジュリアンはマーメイド』は、だれでも自分の好きなように表現する権利について、優しさをもって描いている絵本です。ジュリアンは、ある日、マーメイドの格好をしている人と会います。マーメイドが大好きなジュリアンは「きれいだなあ」とみとれて、家に帰るなり、身近な物をつかってマーメイドに変身します。
トランスジェンダーの物語と解釈できる絵本で、ジュリアンが、鉢植えの植物や窓のカーテンなどでマーメイドの衣装を作り、自身を飾り付けて、口紅を塗り、マーメイドに変身する様子は、とても生き生きとしていて、自分のアイデンティティを探求するジュリアンと、受け入れられる様子に心打たれます。
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4.『アフガニスタンのひみつの学校』
(さ・え・ら書房)作/ジャネット・ウィンター、訳/福本友美子
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タリバンに支配されたアフガニスタンが舞台の、実話をもとにした物語です。
タリバン政権下のアフガニスタンは、女性が学校に行くことを禁止していました。
両親がいなくなってしまったナスリーンは、一言もしゃべらなくなってしまいましたが、ナスリーンのおばあちゃんは、女の子のための「秘密の学校」があることを知り、そこへナスリーンを連れていくことにします。
タリバン政権下の痛ましい性差別と現実が描かれている作品で、学ぶことは人を豊かにし、逆にそれを制限すれば人の自由を奪うことにもなると伝えている絵本です。
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5.『ランスとロットのさがしもの』
(ポット出版)文、絵/リンダ・ハーン、訳/アンドレア・ゲルマー、眞野豊
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『ランスとロットのさがしもの』は、お城に暮らす二人の男の子、ランスとロットが、赤ちゃんがほしいと思い、赤ちゃんを探しに世界をまわる絵本です。
二人は探し回る過程で、コウノトリに会いに行ったり、キャベツの中を探したり(ヨーロッパにはキャベツ畑で子供が生まれるという伝承がある)します。これらの描写は、同性カップルが望んでも子をもうけることが難しいことの悲哀にも読めます。
マイノリティの存在に光をあてる先進性があり、一対の幸福な二人の自然な様子が、当たり前の存在であることを伝えている作品です。
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6.『せかいのはてまでひろがるスカート』
(ライチブックス)、作/ミョン・スジョン、訳/河鐘基、廣部尚子
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『せかいのはてまでひろがるスカート』は、少女のスカートから始まる想像と世界をめぐる冒険を描いた物語絵本です。みつばちやカエル、てんとう虫やありなど様々な生き物などに「あなたのスカートは せかいのはてまでひろがるの?」と質問し、その回答を受け、少女が想像力を働かせ、せかいのはてまでひろがるスカートを描きます。
想像力に満ちた冒険をするこの絵本は、制服などで、女性だからと決めつけられて履かされるものでもあるスカートという衣服を、抑圧からの解放として、自由の象徴としての意味に塗り変えるような、多くの人の救いとなるものです。
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7.『音楽をお月さまに』
文/フィリップ・ステッド、絵/エリン・ステッド、訳/田中万里
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『音楽をお月さまに』は、ひとり静かにチェロを弾くのが好きなハリエットの物語です。親からの、将来は大きなオーケストラでチェロを弾くだろう、という期待が精神的な圧力となっています。
ハリエットは想像力を働かせることで、月と友だちになり、月のためにチェロを弾くことで自らを救います。ハリエットは女性名で、髪も長く少女のようですが、想像の世界でハリエットはお月さまに対し、ハンクと呼んでほしいと伝えます。提示したハンクは、男性に用いられる愛称なため、不思議な印象を受けますが、作中にこの辺りの説明は一切ありません。
ハリエットの心情を多様に解釈できるシーンで、クィアな物語とも読めるし、想像の世界では開放的に別人格を表現したとも読めます。その両方かもしれません。
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8.『ちいさなフェミニスト宣言』
(現代書館)文/デルフィーヌ・ボーヴォワ、絵/クレール・カンテ、訳/新行内美和
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『ちいさなフェミニスト宣言』は、女の子らしさ、男の子らしさをこえて、だれもが自分らしく生きられる社会の実現を目指す、フェミニズム、ジェンダー平等をテーマに描いた絵本です。
学校や幼稚園、保育園、また絵本やアニメで知らず知らずに植え付けられてしまった価値観からの解放を明るく楽しく描いています。
描かれている子どもたちは、いわゆる絵本っぽい場面、例えばドラゴンの出てくる世界や、杖をもった魔法使い、コウモリの飛ぶ古城から、自由で開放的にそれぞれの気持ちを主張します。読者は古い価値観から登場人物たちのように、明るく楽しく自由になりたいと願うはずだし、その行動、言動を模倣したくなるはずです。
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9.『ディアガール おんなのこたちへ』
(主婦の友社)文/エイミー・クラウス・ローゼンタール、パリス・ローゼンタール、絵/ホリー・ハタム、訳/高橋久美子
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『ディアガール おんなのこたちへ』は、女の子たちを応援するメッセージ絵本です。「おんなのこたちへ。なきたいときは ないてもいいんだよ」「おんなのこたちへ。わかりあえる なかまを みつけよう」と、とても温かい文章が続きます。女の子たちへ語りかけるように、やさしく寄り添う言葉はとても美しいもので、固定観念を打ち破る表現も多く書かれています。
「あなたの こころに あかしんごうが ついたら いや! と、いいなさい ね、ぜったいに」と、ときおり強いフレーズで明確に伝える描写がとても心に残ります。
また、この絵本と対になる『ディアボーイ おとこのこたちへ』も出版されており、描かれている内容は、どちらも女の子らしく、男の子らしくといった既存の価値観を打ち破り、読者に自由な考えを伝えるものです。
読み聞かせをしたり、子どもへのプレゼントとして渡すなら、男の子であるなら特に、二つの作品を渡すとよりよい読書体験と影響が得られると思います。
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10.『ピンクはおとこのこのいろ』
(KADOKAWA)文/ロブ パールマン、絵/イダ カバン、訳/ロバート キャンベル
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『ピンクはおとこのこのいろ』は、性役割(ジェンダーロール)を取り払う、だれでも自由に好きな色の服を着ていいと伝える絵本です。
ピンクは女の子、青は男の子といったステレオタイプは、今も強く残っており、本当はこっちの色が好きだけど、笑われたりしそうで選べないという窮屈な状況を経験している子どもは多いかもしれません。そんな性別の固定観念を打ち破る絵本です。
ただ残念ながら、描かれている女の子はほとんどスカートで、男の子は常にズボンを履いています。ジェンダー・バイナリ(性別二元論)を強調する表現にも感じ、他にも性別が男女二種類しかないことを前提で描かれているような箇所がいくつかあります。
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終わりに
昨今トランスの方々への差別的な言説が多く見受けられます。トランスジェンダーの権利保障が公衆浴場やトイレでの加害につながるという主張がよくされていますが、問題なのは性犯罪を目的に侵入する人物であり、トランス女性の排斥が違法な加害者の減少に繋がることはありません。
トランス当事者は生きる上で法律や就職、医療、また家族や恋愛などの人間関係と様々な場面で多くの苦難を抱えているでしょう。そして差別は人を死に追いやることがあります。
本サイト『My絵本レビュー』は全ての差別に反対し、トランス差別に反対します。
絵本を愛するいち読者として誰もが生きやすい社会につながり、差別や偏見をなくす作品のさらなる普及を望みます。
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