マイノリティに光をあてる同性カップルを描いた絵本『ランスとロットのさがしもの』

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【データ】
・作品名: ランスとロットのさがしもの
・作者: 絵、文/リンダ・ハーン、訳/アンドレア・ゲルマー、眞野豊
・出版社: ポット出版
・発売年月: 2019年10月
・出版形態: 紙の本と電子書籍
・ページ数(作品部分): 32ページ
・サイズ: 縦25.5cm × 横21.5cm
・絵と文の比率: おおよそ 9:1 1ページ当たりの文字数は50字ほど
・対象年齢: 小学校2年~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: あり
・ルビの有無: 総ルビ
・分かち書きの有無: なし
・縦書き、横書き: 横書き

【作者】
リンダ・ハーンはオランダ在住のイラストレーター。他に『王さまと王さま』がある。
アンドレア・ゲルマーはドイツ在住のジェンダー研究・歴史学専門家。
眞野豊は北海道生まれ。専門は教育社会学、ジェンダークィア。他に『多様な性の視点でつくる学校教育』がある。

【内容紹介】
お城に住む騎士のランスとロットは、いつもいっしょに世界中を旅したりして楽しく暮らしていた。でもお城に帰ると、そこは誰もいない静かで、空っぽで、寒い場所だった。何かが欠けていると感じた二人は、家族を作る「冒険」に出発した。  
【レビュー】
〈作品の主題〉
お城に暮らす二人の男の子、ランスとロットが、赤ちゃんがほしいと思い、赤ちゃんを探しに世界をまわる絵本だが、二人は探し回る過程で、コウノトリに会いに行ったりキャベツの中を探したりする(ヨーロッパにはキャベツ畑で子供が生まれるという伝承がある)。これらの描写は、同性カップルが望んでも子をもうけることができないことの悲哀にも読める。

その後、子どもを育てられる親を探す人から、赤ちゃんを受け取り、育てるまでを描いている。
マイノリティの存在に光をあてる先進性があり、一対の幸福な二人の自然な様子が、当たり前の存在であることを伝えている。

〈ストーリー〉
ランスとロットの会話はあまりに子どもじみたものだ。たくさんの部屋があるお城に困り、犬を飼おうと思いつくが、犬は家具を噛んだり、あちこちにおしっこをするからやめようと判断し、象は大きすぎるし、ライオンは危険だから、飼うことを断念する。結果、赤ちゃんがほしいと願うのは、思いつきのようで、それほど大きな決意のようには感じられないしあまりにも責任感がない。一方で同性同士が思いつきで子どもを望んでならない訳ではなく、あまり深刻にならず、軽い感じで描いているのもまた、既存の価値観を打破する一手なのかもしれない。

一方、子供の権利の視点に立って考えると、この絵本には少し問題がある。生んで育てるのが親になる唯一の条件ではなく、同性カップルや不妊症など様々な事情により、養子を選択する親はいて、ランスとロットもまた、赤ちゃんを受け取り子育てを開始するが、養子というのは子を望む親のためではなく、あくまでも子どものための福祉と考えるべきで、その辺りこの物語では描写が足りない。

養子の仕組みは、生んだ親、子供、育てる親が幸せになることを目指すべきだが、子は親を選ぶことができない。つまり子供だけに選択権がない。一作の絵本に多くを求めすぎるのは良くないが、もう少し丁寧な作りにしてほしかった。

〈絵と文〉
絵はファンタジーな世界が楽しく表現されていて、ランスとロットの二人もまた生き生きと描かれている。

文は少し翻訳調なところが気になるが、読みやすく穏やかで心優しい物語を上手く表現している。

〈キャラクター〉
ランスとロットの二人が主人公だが、二人にキャラクターの違いが見受けられない。見た目は異なるが、性格や言動や口調に差異はない。似通った二人が仲良くなる物語も悪くないが、読んでいてどちらがどちらでもいいような退屈な気分になる。

〈製本と出版〉
総ルビだが、「騎」など小学校六年間で習わない字が使われている。一方で、食たく(食卓)、広こく(広告)など熟語の片方がひらがなで書かれている。読みづらいし基準が曖昧。

【評点】


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