絵本『のせてくださいな』 - クロヒョウがバスに乗った日 -

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 【データ】
・作品名: 『のせてくださいな』
・作者: 作/みやけ ゆま
・出版社: BL出版
・発売年月: 2023年1月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 32ページ
・サイズ: 縦26.5cm × 横21.5cm
・絵と文の比率: おおよそ 9:1 1ページ当たりの文字数は20字ほど
・対象年齢: 5歳~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: なし
・ルビの有無: ―
・分かち書きの有無: あり
・縦書き、横書き: 横書き

【作者】
みやけ ゆまは神戸市在住の保育士、絵本作家。他に『チーターじまんのてんてんは』がある。

【内容紹介】
ある日クロヒョウは、バス停で「のりものにのってみたい」と、バスを待っていた。そこへやってきたバスにクロヒョウは、「のせてくださいな」と言った。運転手さんは少し考えてから「お行儀良く乗れるなら、良いですよ」と言ったので、クロヒョウはバスに乗せてもらう。
【レビュー】
〈ストーリー〉
クロヒョウはバスに乗れたけど、くしゃみをしたら運転手にもお客さんにも怖がられて、バスをおろされてしまう。
その後も、タクシーに乗ってもバイクの後部座席に乗っても、伸びをしたりあくびをしたために怖がられて、おろされてしまう。
可愛そうなクロヒョウだけど、豪快にくしゃみをしているシーンは、ユーモラスにも描かれているため、楽しんで読める。

一方、クロヒョウが「ぎょうぎよく」しなくちゃバスに乗れない不条理と、くしゃみやあくびといった生理現象で下りることを余儀なくされてしまう一連のシーンは、人種差別の問題が描かれていると解釈できる。
「クロヒョウ」であることもそうだし、見た目を理由に恐れられバスに乗れない描写は、モンゴメリー・バス・ボイコット事件が連想される。

モンゴメリー・バス・ボイコット事件は、黒人のローザ・パークスが、白人に席を譲らなかったためにバスから引き降ろされた事件で、後の公民権運動にも繋がったもの。
物語で描かれているバスは、実際にパークスが逮捕時に乗っていたバスと色合いも似ているため、明確に意図されて描かれているようだ。

小さな子にも読みやすい、シンプルな繰り返しタイプの絵本で、差別やステレオタイプのない、だれもが住みやすい未来につながるような力強さもある、非常に素敵な作品。

〈絵と文〉
絵は温かみがあって、クロヒョウも他の登場人物も表情が豊かで飽きずに読める。また、背景の町並みも丁寧に描かれていて、小物を探す楽しさもある。
クロヒョウがくしゃみをするシーンは、迫力もあるしイラストにも緩急がある。

タイトル『のせてくださいな』にもあるように、クロヒョウの言葉づかいは丁寧でまた、地の文章も共通している。それもまた切なくなるような、心が動かされる気持ちで読めるし、「行儀が良い」行動を指示されるクロヒョウの気持ちで読める。

〈キャラクター〉
乗り物に乗れずにくたびれてしまったクロヒョウは、広場で横になっているとき、三輪車に乗った男の子と出会う。
男の子は純粋で偏見もなく、クロヒョウは三輪車に乗させてもらう。男の子の優しさに心が温まるし、描かれている男の子のような行動に出たいと思えるような、いい影響力がある作品だと思う。

〈製本と出版〉
分かち書きのひらがなカタカナの絵本。ただ、背景の町並みには振り仮名なしで漢字が使われている。
文章が背景の絵と重なる箇所があるが、読みづらい部分はない。

【評点】


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