ジェンダー表現の自由、トランスジェンダーがテーマの絵本『ジュリアンはマーメイド』

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【データ】
・作品名: ジュリアンはマーメイド
・作者: 作/ジェシカ・ラブ、訳/横山和江
・出版社: サウザンブックス社
・発売年月: 2020年5月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 34ページ
・サイズ: 縦23.5cm × 横26cm
・絵と文の比率: おおよそ 9:1 1ページ当たりの文字数は20字ほど
・対象年齢: 5歳~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: なし
・ルビの有無: ー
・分かち書きの有無: あり
・縦書き、横書き: 横書き

【作者】
ジェシカ・ラブはブルックリン在住の俳優、絵本作家、イラストレーター。本作が初めての絵本。
横山和江は山形市在住の翻訳家。主な作品に『300年まえから伝わる とびきりおいしいデザート』、『いえのなかといえのそとで』などがある。

【内容紹介】
ジュリアンは、おばあちゃんと行ったプールの帰り、電車に乗っていると、マーメイドの格好をしている3人と会う。マーメイドが大好きなジュリアンは「きれいだなあ」とみとれて、おばあちゃんに「ぼく、マーメイドなんだ」と打ち明ける。そして、ジュリアンは家に帰るなり、身近な物をつかってマーメイドに変身する。
するとおばあちゃんにマーメイドの姿のまま外へ出ようと誘われ、ついた先では、海の生き物に扮した色鮮やかな人たちのパレードが開かれていた。

【レビュー】
〈作品の主題〉
シンプルなテキストとダイナミックな絵で、子どものアイデンティティを尊重することの大事さを説教臭くせずに表現している。
「ジェンダーの多様性」などの用語を使わずに、だれでも自分の好きなように表現する権利を、優しさをもって描いている。
トランスジェンダーの物語と解釈できる、ジェンダー表現の自由を伝える絵本。

〈ストーリー〉
電車の中でマーメイドを見かけたジュリアンは、自身がマーメイドとなり自由に海を泳ぎ回ることを想像する。様々な魚と泳ぐ姿は開放的で美しい。その際大きな魚からネックレスを受け取るが、その後ジュリアンは、実際に魚と同じ柄の服を着たおばあちゃんから、真珠のネックレスを渡される。

想像を実現する物語で、そのジュリアンの思いが優しいおばあちゃんに受け入れられる様子に心打たれる。

〈絵と文〉
絵は落ち着いているシーンと華やかなシーンがあり、どちらも大変魅力的で、特にパレードのページは印象に残る。
背景は白ではなく茶色で描かれている。ジュリアンやほかの登場人物の肌の色に合わせているようだ。

文は非常にシンプルだが、分かりづらくなるような箇所もなく、洗練された美しさがある。

〈キャラクター〉
ジュリアンは、おばあちゃんがシャワーを浴びている間に、鉢植えの植物や窓のカーテンなどでマーメイドの衣装を作り、自身を飾り付けて、口紅を塗り、マーメイドに変身する。自分のアイデンティティを探求するジュリアンは大変楽しそうで生き生きとしている。

またマーメイドは性器がなく、人間と魚の中間のような存在で、トランスを描く物語の示唆になっているようだ。

〈製本と出版〉
特徴的なフォントだが読みづらくはない。文字の大きさは小さめ。黒の字で書かれている。

【評点】


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