"プライベートパーツ"を学ぶ性教育の絵本『うみとりくのからだのはなし』

【データ】
・作品名: うみとりくのからだのはなし
・作者: 作/遠見才希子、絵/佐々木一澄
・出版社: 童心社
・発売年月: 2022年3月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 29ページ
・サイズ: 縦25cm × 横22cm
・絵と文の比率: おおよそ 8:2 1ページ当たりの文字数は70字ほど
・対象年齢: 6歳~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: なし
・ルビの有無: ー
・分かち書きの有無: あり
・縦書き、横書き: 横書き

【作者】
遠見才希子は、神奈川県生まれの産婦人科医。主な作品に、『だいじだいじどーこだ?』『ひとりじゃない 自分の心とからだを大切にするって?』がある。
佐々木一澄は、東京都生まれのイラストレーター、絵本作家。他に、『てのひらのえんぎもの 日本の郷土玩具』『でんしゃからみつけた』などで知られる。

【内容紹介】
ふたごのうみとりくは、そっくりだけど、全然違う。りくはおかあさんになでられるのが好きだけど、うみはなでられるのが苦手。
この世界には、同じ人は一人もいない。好きなこと、嫌いなこと、感じることは、みんな違う。それから、体には、自分だけの特別な大切なところがある。そこを勝手に触ったり、じろじろ見たりしてはいけないと伝える絵本。

【レビュー】
〈作品の主題〉
ふたごのうみとりくといっしょに、体を大切にするために必要なことを学べる絵本。体の権利や、個人を尊重すること、プライベートパーツについて知る一冊目の絵本として優れている。

〈ストーリー〉
双子のうみとりくの目線で、説教臭くならないように工夫しながら描かれた、性教育の絵本。また、平易な言葉で表現されていて読みやすい。
プライベートパーツに関する描写で、母親がりくに対して「おしりにくすりぬるから さわっていい?」と聞いている。親であっても聞くことが必要で、保護者や教育者に対する性教育の絵本でもある。

また、性被害を受けた際に、この人ならと安心できる大人に話そう、よく話してくれたと助けてくれる大人がいる、と伝えている。
これも大人への呼びかけとも読めて、被害にあった子どもを救ってあげる一人になろう、と訴えているようだ。

この世界に同じ人はいなく、誰もが自分だけの体を持っていて、誰がどんな様に触っていいかは自分で決めると伝えるシーンは非常に力強く感じた。
性被害にあった場合、本人に責任はないことを丁寧に伝えているところもとてもいいと感じた。被害にあった子どもが責任を感じてしまうこともあるし、実際にそんな境遇にあってしまった読者を救う表現でもあると思う。

当サイトの絵本レビューは、絵本部分のみをもって評価しているが、巻末に相談先の電話番号とURLが詳しく記載されているのはとても親切に感じた。
作品内においても、相談できる、この人なら安心だと思える大人が身近にいなかったら、電話や相談できる施設があると描いていたほうが、さらに良かったと思う。
なお、当サイトが絵本部分のみをもって評価している理由は、解説を前提とした作品だと絵本として完成しているとは思えないし、そのような本が増えると絵本芸術の発展が損なわれると考えているため。
〈絵と文〉
作中、「男の子」「女の子」といった性別を表す文章が一度も登場していない。男の子のように見えるうみとりくも、「ふたりは ふたごの うみ と りく」とだけ紹介されている。性について描いている絵本であるために、画一的に描かないようにしたのだと思う。また、どんな読者でも自身を当てはめやすいようにしたのだろう。

一方で、自分の体は自分のものと伝えるシーンで、30人程の人種、障害などの違う子どもたちが描かれているページがある。
みんな楽しそうに過ごしているが、女の子風の子はみんなスカートで男の子風の子はみんなズボンをはいている。性別が男女二種類しかないことを前提で描かれているような、ジェンダー・バイナリー(性別二元論)を強調する表現にも感じる。
この手の俯瞰で多くの属性の人を描いた「平和」なイラストは絵本でよく見かけるし、普段はあまり気にならないが、性についての絵本だけに少し引っかかった。

〈キャラクター〉
双子のうみとりくにはそれぞれ違いがあり、ひいては誰にでも一人ひとりに「好き」と「苦手」の線引きがあること、そして同意の大切さを伝えている絵本。
「双子」という多くの絵本において、一緒くたにされがちな二人にフォーカスし、個性を尊重することの大切さを描くいているのは、一人ひとりの違いを伝えるのに優れた工夫に感じた。

〈製本と出版〉
絵本の大きさは少し小さめ。文字の大きさはふつう。背景の絵と重なる箇所があるが読みづらいページはない。セリフが手書きのフォントで書かれていて少し読みづらい。

【評点】


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