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【データ】
・作品名: 音楽をお月さまに
・作者: 文/フィリップ・ステッド、絵/エリン・ステッド、訳/田中万里
・出版社: カクイチ研究所、ぷねうま舎
・発売年月: 2021年4月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 38ページ
・サイズ: 縦28.5cm x 横19.5cm
・絵と文の比率: おおよそ 7:3 1ページ当たりの文字数は120字ほど
・対象年齢: 小学校3年~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: あり
・ルビの有無: 部分的にルビ
・分かち書きの有無: なし
・縦書き、横書き: 横書き
【作者】
フィリップ・ステッドとエリン・ステッドは作家とイラストレーターの夫妻。『さらわれたオレオマーガリン王子』など多くの絵本を共同制作している。
田中万里は長野県生まれの訳者。他に『人類はどこへいくのか』がある。
【内容紹介】
自分の部屋でひとり静かにチェロを弾くのが好きなハリエット。うるさいフクロウにいらだって、窓からティーカップを投げると、お月さまに命中してしまった。空から落ちたお月さまと仲良くなったハリエットは、お月さまから「わたしのためにチェロを弾いてくれませんか?」と言われる。
【レビュー】
〈作品の主題〉
すべての子供が外向的で、ステージで輝きたい、目立つことが好きだとは限らない。この物語の主人公のハリエットは、親からの、将来は大きなオーケストラでチェロを弾くだろう、という期待が精神的な圧力となっている。
対人恐怖症もしくは感覚過敏とも解釈できるハリエットは、人前での演奏に恐怖を感じている。
ハリエットは想像力を働かせ、月と友だちになり、月のためにチェロを弾くことで自らを救う。小さな成長を感じさせるこの物語は、人前が苦手で緊張しやすい多くの読者に響くだろうし、勇気を与えるだろう。
〈ストーリー〉
この月と友だちになる幻想的な物語は、主人公ハリエットの想像であるとは明言されていない。しかし、作中にくまの帽子職人とセイウチの漁師が登場するが、序盤の食卓にくまとセイウチの人形がさり気なく置かれていることから、この物語がハリエットの想像であることが示されている。
描かれている物語は、チェロの演奏をお月さまに披露するシーンで終わるが、ハリエットが現実に戻った時、彼女が小さな成長を(それが堂々と人前で演奏ができるというわけではなくても)していることが読者に想像できる。
〈絵と文〉
絵は、しずかで居心地のよい、ハリエットにとって理想的な動物が住む幻想的な世界がうまく表現されている。
文は少し読みづらいし分かりづらく、明瞭な文章とはいえない。主語や他動詞が抜けている箇所が多い。ただそれらはおそらく意図的なものだろう。幻想的な物語と絵にマッチしているともいえる。
〈キャラクター〉
ハリエットは女性名で、髪も長く少女のようだ。しかし、想像の世界で、ハリエットはお月さまに対し、ハンクと呼んでほしいと伝える。提示したハンクは、男性に用いられる愛称なため不思議な印象を受けるが、作中にこの辺りの説明は一切ない。
ハリエットの心情を多様に解釈できるシーンで、クィアな物語とも読めるし、想像の世界では開放的に別人格を表現したとも読める。その両方かもしれない。物語をさらに魅力的に、立体的にさせる要素の一つで、主人公の現実的な存在感が増す優れた表現だと思う。
〈製本と出版〉
文字は小さめだが、対象にした年齢が小学校中学年以上だろうから、特に問題はないだろう。当サイトでは、ルビの基準やページ辺りの文字数から見て小学校3年~とした。
文章は全て白地の部分に黒の字で書かれているため、読みづらいと感じる箇所はない。
【評点】
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