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・作品名: アフガニスタンのひみつの学校 ほんとうにあったおはなし
・作者: 作/ジャネット・ウィンター、訳/福本友美子
・出版社: さ・え・ら書房
・発売年月: 2022年2月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 32ページ
・サイズ: 縦28.5cm × 横23.5cm
・絵と文の比率: おおよそ 8:2 1ページ当たりの文字数は80字ほど
・対象年齢: 小学校2年~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: あり
・ルビの有無: 総ルビ
・分かち書きの有無: なし
・縦書き、横書き: 横書き
【作者】
ジャネット・ウィンターはアメリカの絵本作家。他に、『この計画はひみつです』『カプリの王さま』などで知られる。
福本友美子は東京都出身の翻訳家。 主な作品に、『ニッキーとヴィエラ』『おさるのジョージ』シリーズなど多数。
【内容紹介】
タリバンに支配されたアフガニスタンが舞台の物語。学校に行くことを禁止され、両親もいなくなってしまったナスリーンは、一言もしゃべらなくなってしまった。ナスリーンのおばあちゃんは、女の子のための秘密の学校があることを知り、そこへナスリーンを連れていくことにする。
今から20年ほどまえのアフガニスタンでの実話。
【レビュー】
〈作品の主題〉
ナスリーンは、タリバンの兵士から逃れながら秘密の学校で学ぶ。ナスリーンは共に学ぶ女の子に心を開き、再び笑顔を取り戻す。
タリバン政権下の痛ましい女性差別と現実が描かれている作品で、学ぶことは人を豊かにし、逆にそれを制限すれば人の自由を奪うことになると伝えている絵本。
ショックな出来事があり心を閉ざしてしまった人を勇気づける物語でもある。
〈ストーリー〉
ストーリーは祖母の視点から、心を閉ざし話さなくなった孫娘の少女ナスリーンを語る構成となっている。
タリバン政権下のアフガニスタンの厳しい現実と、祖母の目線で語る等身大の少女の描き方がうまく、物語を理解しやすい。
タリバン政権下の悲痛な様子が描かれているこの絵本は、2011年にアメリカで出版され、2022年に訳された作品で、当時はアフガニスタンの治安は少しずつ良くなっていく過程にあったようだが、イスラム原理主義武装勢力タリバンが2021年8月に暫定政権を樹立したために、現在は治安の悪化が進んでいる。
ロシアのウクライナ侵攻は多くの報道と強い関心が集まる一方で、あまり注目されないものの、いまだ深刻な状況にある国アフガニスタンを考えるきっかけとなる絵本。
命の危機がありながらも学ぶことの重要性が表現されており、身に着けた知識を盗むことはできないという力強いメッセージが盛り込まれている。
子どもと学習の目線で考えると、この絵本は「世界には学びたくても学べない子もいるから、さぼらずに勉強しようね」というものではなく、学習することは傷をいやすことにもなるし、知識を身に着けることが平和を取り戻すことにつながると伝えている作品である。
そのため、この絵本で描かれている「遠い国」アフガニスタンの悲惨な出来事を読むことで、読者がナスリーンのように学習し、思考し、発信することが世界をより良い方向へ変えていけるとも伝えている。
〈絵と文〉
荒廃したアフガニスタンが描かれている絵本。作中、タリバン政権の存在を黒い雲に例えており、イラストには多くの場面で黒い雲、そして赤みがかった空が描かれていて、その支配下にある危険で不穏なアフガニスタンが表現されている。
終盤の展開には希望が見え、赤い空が青い空へ変わり、ナスリーンの晴れやかな気持ちが伝わるが、黒い雲は消えたわけではなく、そのタリバン政権が存在し続ける当時の現状を描く巧みな表現に感じた。
文は読みやすく、語り手の祖母の温かく優しい姿と、深刻な状況にある孫娘とアフガニスタンを憂える気持ちが伝わる。
〈キャラクター〉
語り手の祖母は、秘密の学校で学習を始める孫娘を思い、ナスリーンの目が世界に開かれるようにアラーに祈る。そして、心を開いたナスリーンの様子を見てアラーに感謝する。
悪はタリバン政権であり、イスラムの信仰を肯定的に描いているのがとてもいいと感じた。
〈製本と出版〉
文字の大きさはふつう。全てのページで白の背景に黒の字で書かれており、大変読みやすい。
【評点】
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