いじめ「加害者」にならないために、思いやりの絵本 おすすめ10作品


子どもがいじめの「被害者」にならないでほしいと願うことは、保護者の最も強い気持ちの一つだと思いますが、それを実現するためには、加害者を遠ざけることや、いじめを生む環境の整備が必要で、残念ながら保護者や子どもにできることは少ないでしょう。
一方で読書をすることで、立場の違いや思いやり、人への加害の重さを知ることはできます。
以下では、子どもや、場合によっては大人が、読むといじめ加害者にならなくなるような絵本を10作品紹介します。

1.『ことりになったら』

(岩崎書店)作、絵/ひら てるこ
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『ことりになったら』は、言葉を出すのが苦手で、なかなか謝ることのできないおーちゃんを描いた物語です。

話すことが苦手なおーちゃんは、ある日、胸に穴が開いてることを理由に入院することになります。おーちゃんは、となりのベッドのめぐちゃんと仲良くなりますが、手が冷たいことをからかわれて、めぐちゃんのほっぺをつねってしまいました。謝ることができないまま、めぐちゃんの手術の日がやってきます。
病気や手術の不安を抱えている子どもたちを応援するような作品で、手術を控えるおーちゃんとめぐちゃんは「ことりになりたい」と願いますが、その気持ちには、様々な思いを巡らせて読むことができます。ごめんねの一言が言えない人を後押ししてくれる絵本でもあります。
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2.『わたしとあなたのものがたり』

(光村教育図書)文/アドリア・シオドア、絵/エリン・K・ロビンソン、訳/さくまゆみこ

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『わたしとあなたのものがたり』は、“わたし”の人生を振り返りながら、祖先から伝わる黒人差別の出来事を、“あなた”に語りかける絵本です。

クラスでたった一人の茶色の肌の“わたし”は、黒人の歴史についての授業の際、注目が集まり孤立していてしまいます。他者とみなされることの思いを、祖先が受けた出来事とともに振り返るストーリーとなっています。
“わたし”は、奴隷として生まれた直系5親等の女性(作中での表記は「わたしの母さんのおばあちゃんのおばあちゃん」)から、自由人として生まれたけれど、十分な教育を受けられなかった曾祖母、ジム・クロウ法があったころに生きた母と、繰り返し表現で、なくならない差別の歴史を顧みながら、“わたし”が自分自身を見つめていく過程が描かれています。そして、娘である“あなた”に力強く未来を生きてほしいと望みます。

笑い声や視線がクラスメイトなど身近な人にどのような影響を与えるか、どういった伝え方が必要かを考えるきっかけとなる絵本です。
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3.『やさしくてあたたかい』

(化学同人)作/リッカルド・フランカヴィーリャ、訳/やまさきみづは

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『やさしくてあたたかい』は、生まれた時は、小さかったけど、それからどんどん大きくなり、そしてびっくりするほど大きくなった、“おおきなこの子”の物語です。

“おおきなこの子”が、体の特徴を理由に多くの人に疎まれる様子が描かれています。街を追い出され(逃れ)、受け入れてくれる街に引っ越し、働きながら暮らす“おおきなこの子”の姿は、難民及び移民が連想されます。
難民とは戦争や差別、宗教や貧困などといった事情で、国を離れなければならなくなった人たちのことです。難民の人たちには当然人権があり、差別からの保護と働く権利が与えられます。この物語は差別から逃れ、権利が与えられる様子が、いい意味で非常にあっさりと、強い主張にせず伝えています。

誰だって活躍できる場所があり、いじめられたり孤独を感じることがあったとしても、個性を活かす場所があることを教えてくれる絵本です。読者に『やさしくてあたたかい』居場所がきっと見つかると伝えています。
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4.『わたしのかぞく みんなのかぞく』

(あかね書房)作/サラ・オレアリー、絵/チィン・レン、訳/おおつかのりこ

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『わたしのかぞく みんなのかぞく』は、学校で先生が「じぶんの かぞくの、とっておきの はなしを、みんなにきかせてね」と言ったのを聞いた、“わたし”が、自分の家族はほかのみんなと違うからと、何を話せばいいか困ってしまうところから始まる物語です。

ほかの子どもたちは先生に促され、自分の家族のことをクラスメイトに話し始めます。
養子の多い家族や、離婚した両親とで交互に過ごす子、人種の違う家族、連れ子同士の家族、同性カップルの子など、様々な子どもたちが幸せそうに過ごしている素敵な様子を語ります。
それぞれの家族の話を、子ども自身が子どもの目線でみんなに親しげに話す様子は、とても幸せそうで、また温かさと力強さがあります。読んでて勇気づけられる読者も多いと思います。また、様々な家族のかたちがあることを知り、偏見を無くすきっかけとなる物語でもあります。

マイノリティだけでなく、幼馴染でずっと仲良しな親だとか、音痴だけど歌うのが好きな親だとか、偏見の対象とならないような家族も混ざっているのも優れた表現に感じました。
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5.『マイロのスケッチブック』

作/マット・デ・ラ・ペーニャ、絵/クリスチャン・ロビンソン、訳/石津ちひろ
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『マイロのスケッチブック』は、見かけだけで人を判断する問題点と、偏見に気付く少年の成長を描いた絵本です。

〈出版社公式の紹介動画〉

少年マイロは同じ電車に乗った人を想像し絵を描きます。序盤のストーリーは絵本によくある、想像力の無限の可能性を描いたような絵本です。
例えばダウンタウンで慌てて降りるひげ面のおじさんを見て、古いアパートに住み動物たちと暮らす姿を描いたり、ジャケットを着て真っ白のナイキの靴を履いた白人の少年を見て、馬車に乗る姿を連想しイラストにします。

しかしマイロは、描いたばかりの絵が気に入らなくて、スケッチブックを閉じました。そして窓に映る自分の姿を見て、人はどんなことを想像するのだろうかと考えます。

想像力の無限の可能性を描いた絵本は多くありますが、読者を想像の楽しさから一歩先へ導く作品です。先進性と思いやりに溢れた非常に優れた絵本です。
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6.『ともだち?』

(リーブル)作/うえの よし、絵/さとう のぶこ

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『ともだち?』は、しゃべるのが苦手でいつもひとりぼっちのおおかみのロウロウが、友達を作るため、マラソン大会での優勝を目指す物語です。

『ともだち?』というタイトル、語り手のオオカミの序盤の描写から、絵本としてありがちな、「見た目で恐れられているオオカミが、みんなの前で“道徳的”なことをして友達として受け入れられる」といった物語と思いきや、いい意味で裏切られる展開です。

ロウロウがマラソン大会で2番目を走っていると、先頭にいたキツネのツネがお腹を痛めて倒れているのを見つけます。ロウロウは放っておけず、ツネを背中に乗せ、ゴールを目指すことにしました。しかし、ゴール付近でツネに背中から降りられ、優勝を奪われてしまいます。
ツネは周囲から喝采され、ロウロウは行き場をなくしてしまいました。

夜になり、ロウロウのもとにツネが謝罪にやってきます。自らの行動を悔い、心が小さいと恥じるツネですが、ロウロウは、心を大きくするため遠吠えしようと提案し、共に月に向かって吠えます。もやもやとした気持ちを晴らし、友情を確認するシーンで非常に魅力的です。

他者と心を通わせることの楽しさ、してしまったことを反省し、ひたむきな態度で向き合うことの大切さを伝えている絵本です。
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7.『ジュリアンはマーメイド』

(サウザンブックス社)作/ジェシカ・ラブ、訳/横山和江
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『ジュリアンはマーメイド』は、だれでも自分の好きなように表現する権利について、優しさをもって描いている絵本です。
ジュリアンは、ある日、マーメイドの格好をしている人と会います。マーメイドが大好きなジュリアンは「きれいだなあ」とみとれて、家に帰るなり、身近な物をつかってマーメイドに変身します。

電車の中でマーメイドを見かけたジュリアンは、自身がマーメイドとなり自由に海を泳ぎ回ることを想像します。様々な魚と泳ぐ姿は開放的で美しく描かれています。

トランスジェンダーの物語と解釈できる絵本で、ジュリアンが、鉢植えの植物や窓のカーテンなどでマーメイドの衣装を作り、自身を飾り付けて、口紅を塗り、マーメイドに変身する様子は、とても生き生きとしていて、自分のアイデンティティを探求するジュリアンと、受け入れられる様子に心打たれる絵本です。
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8.『もりにきたのは』

作/サンドラ・ディークマン、訳/牟禮あゆみ

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『もりにきたのは』は、海に流されて森にやってきたホッキョクグマの物語です。ホッキョクグマは森の動物たちが初めて見る生き物で、森の動物たちはよそ者であるホッキョクグマを恐れ、避けるようになります。これらは外国人排斥や、難民及び移民に対する差別が連想されます。
ホッキョクグマは、森の動物たちから“しろいやつ”などと呼ばれ、“他者”とみなされ理由もなく避けられます。そんな独りしょんぼりしているホッキョクグマを見て、放っておけないと感じたカラスは話しかけます。
理解と思いやりを深めるその行動で、カラスはホッキョクグマと森の住人を結びつけることになります。

美しい幻想的なイラストで描かれたこの絵本は、コミュニケーションの重要性と、話しかけるはじめの一人となる勇気の大事さが表現されていて、不慣れな人に対する恐れから始まる差別をなくす出発点となる作品です。
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9.『ええところ』

(学研)作/くすのきしげのり、絵/ふるしょうようこ

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『ええところ』は、周りの子達と自分を比べて劣っていると考えてしまう子の物語です。
あいちゃんは、自分の「ええところ」が見つからず、友人のともちゃんに聞いてみると、手が温かいことがええところだと教えてもらいます。クラスの子達の手を握って回り、とても喜ばれたあいちゃんでしたが、いつしか手は冷たくなってしまいます。
落ち込んだあいちゃんに、ともちゃんは、一生懸命に手を温めて回るあいちゃんのやさしさがええところだと伝えます。あいちゃんはともちゃんこそが一番優しいと気づきました。

誰にだって「ええところ」はあって、そしてその人の長所を発見できる人は、とても心優しい人であると教えてくれる美しい作品です。
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10.『わたしお姫さまになれたよ』

(三恵社)作/丑野公輔、絵/榊原ますみ、監修/岡田新吾


『わたしお姫さまになれたよ』は、生まれた時から目が見えない女の子、ちぃちゃんが、はじめて美容室へ行く物語です。

ちぃちゃんは美容師のひろくんに、勇気をふりしぼり、お姫さまになりたいと伝えます。するとひろくんは、ちぃちゃんにさわってもらって髪の長さを確認しながら、チョキチョキと髪の毛を切っていきます。髪を切り終えちぃちゃんはママに、わたしお姫さまになれたよ、と言って笑いました。

目が見えない子どもの想像力と夢の実現を、美容室での髪のセットを用いて描いた作品です。
障害の苦労を利用して感動させようとする物語やテレビ番組はときおり見かけますが、この作品はそんな類いのものではなく、主人公の目の見えないちぃちゃんは、いつも笑顔で想像力を働かせ日常を楽しんでいます。また、障害を軽んじている表現もなく健常者との違いも丁寧に描いている絵本です。
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