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人の心に寄り添う絵本は多くあります。読むと元気をもらえる力強い絵本から、悲哀の中からの小さな希望を描き、そっと読者の背中を押してくれる作品もあります。以下では、そんな鬱積した感情を開放して、少しでも心を軽くしてくれるような選りすぐりの絵本を10作品紹介します。
1.『海のアトリエ』
(偕成社)作/堀川理万子
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『海のアトリエ』は、少女“わたし”が、おばあちゃんが絵描きさんのアトリエで過ごした特別な思い出を聞く物語です。
事情により学校に行けなくなった当時のおばあちゃんは、絵描きさんといっしょに創作料理を食べたり、本を読んだり、不思議な体操をしたり、水着を着て海に出かけたり、美術館に出かけたりなど様々なことを体験します。
その自由で楽しそうな、一見関連性のない様々な出来事が影響し、おばあちゃんの心につかえている感情を救い、将来に影響を与えているようで心が洗われるような読後感があります。
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2.『キオスク』
(潮出版社)作/アネテ・メレツェ、訳/くろさわあゆみ
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『キオスク』は、とても大きな体のため、キオスクに入って出られなくなってしまった女性、オルガの物語です。
ツッコミどころを探そうと思えばいくらでもおかしな箇所はあるけれど、その辺を気にさせず物語がぐんぐん流れていきます。予想のつかない出来事が連鎖し、思いがけず夢を叶える展開で、どんな状況でも笑顔で前向きなオルガになんだか救われる、不思議な魅力がある作品です。
オルガの体は大きく、それが理由にキオスクから出られない設定ですが、特別太っていることを茶化す表現がなく、生き生きと描かれているのもいいところです。不幸な出来事があっても気にせずに、目まぐるしい展開を笑顔で乗り切るオルガはとても素敵です。
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3.『せかいでいちばんのばしょ』
(BL出版)作/ペトル・ホラチェック、訳/いわじょう よしひと
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『せかいでいちばんのばしょ』は、美しい野原に住む野うさぎが、世界で一番の場所を探す旅に出る絵本です。
野うさぎは世界中を旅して、どれもこれも素晴らしい場所と思いますが、なぜか寂しさを感じています。そして、野うさぎはずっと探していた答えを見つけます。それは、世界で一番の場所は友だちのいる場所だということです。
広い世界に何があるかを考える好奇心と、気の合う友だちと共にいることの幸せを描いた心温まる絵本です。
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4.『おじいちゃんのねがいごと』
(光村教育図書)文/パトリシア・マクラクラン、絵/クリス・シーバン、訳/なかがわちひろ
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『おじいちゃんのねがいごと』は、鳥が大好きなおじいちゃんと家族を描いた物語です。鳥とおじいちゃんに関連するエピソードを用いながら、その思い出を振り返るように、おじいちゃんとの別れを描いています。
儚さと哀愁を感じさせる淡い魅力がある作品で、描かれている永遠の別れは、喪失さとともに心が浄化されるような美しい趣があります。
思い出を振り返る儚さもあるイラストは、物語ととても良く合っています。想像力をかきたてる絵で、黄色を基調にしているのも、哀愁を感じさせ、物語を支えています。
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5.『つきのばんにん』
(小学館)作/ゾシエンカ、訳/あべ弘士
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『つきのばんにん』は、あたらしい「つきのばんにん」に選ばれたシロクマのエミールの物語です。エミールは夜の動物たちにとってなくてはならない月の光を守るため、毎晩欠かさず、月のお世話をします。
ところがある晩、エミールは丸い月の形が、少し欠けていることに気がつきます。
慌てふためくエミールに対し友人の鳥が、「ものごとは大きくなったり、小さくなったり、消えたと思ったら現れたりするものだ」と伝えます。心をゆったりと保ち、あまり不安がらずに生きることを勧めている絵本です。
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6.『やさしくてあたたかい』
(化学同人)作/リッカルド・フランカヴィーリャ、訳/やまさきみづは
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『やさしくてあたたかい』は、生まれた時は、小さかったけど、それからどんどん大きくなり、そしてびっくりするほど大きくなった、“おおきなこの子”の物語です。
“おおきなこの子”は、たくさん食べて、なんでもふんづけて、ぺしゃんこにしちゃうため、みんなから「大きすぎる!」「大問題だ!」と言われ大騒ぎになってしまいます。
誰だって活躍できる場所があり、いじめられたり孤独を感じることがあったとしても、個性を活かす場所があることを教えてくれる絵本です。
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7.『ともだち?』
(リーブル)作/うえの よし、絵/さとう のぶこ
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『ともだち?』は、しゃべるのが苦手でいつもひとりぼっちのおおかみが、友達を作るため、マラソン大会での優勝を目指す物語です。
『ともだち?』というタイトル、語り手のオオカミの序盤の描写から、絵本としてありがちな、「見た目で恐れられているオオカミが、みんなの前で“道徳的”なことをして友達として受け入れられる」といった物語と思いきや、いい意味で裏切られる展開です。
他者と心を通わせることの楽しさ、してしまったことを反省し、ひたむきな態度で向き合うことの大切さを伝えている絵本です。
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8.『さくららら』
(アリス館)文/升井純子、写真/小寺卓矢
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『さくららら』は、雪に埋もれる背の低い桜の木が、つぼみをつけ、開花するまでを写真を用いて描いた作品です。
桜の木は辺りの鳥や木や虫と会話しますが、かれらに開花を急かされながらも、桜の木はあくまで自分のペースで成長します。その後、堂々と開花したのち、「わたしがさく日は わたしがきめる」と桜の木は言います。このセリフには大変勇気づけられるし、爽やかな読後感があります。
擬音が多くリズミカルな文は、大変読みやすく、読み聞かせにも適してると思います。カタカナを用いない文章は柔らかく、作品の雰囲気を形作る表現にも感じます。
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9.『音楽をお月さまに』
(カクイチ研究所 ぷねうま舎)文/フィリップ・ステッド、絵/エリン・ステッド、訳/田中万里
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『音楽をお月さまに』は、ひとり静かにチェロを弾くのが好きなハリエットの物語です。親からの、将来は大きなオーケストラでチェロを弾くだろう、という期待が精神的な圧力となっています。
ハリエットは想像力を働かせ、月と友だちになり、月のためにチェロを弾くことで自らを救います。小さな成長を感じさせる物語で、人前が苦手で緊張しやすい多くの読者に響くだろうし、勇気を与える、優しい物語です。
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10.『迷子の魂』
(岩波書店)文/オルガ・トカルチュク、絵/ヨアンナ・コンセホ、訳/小椋彩
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『迷子の魂』は、忙しすぎて魂をなくしてしまった男、ヤンの物語です。ヤンはあるとき記憶を失ったため、賢い老医師を訪れます。医師の「魂が動くスピードは、身体よりもずっと遅いのです。あなたはじっくりじぶんの魂を待つべきです」という助言に従い、ヤンは「迷子の魂」をじっと待つことにします。
忙しく働きまわる人生から、いったん立ち止まり、じっと身を落ち着かせることで得られる幸福を教えてくれる絵本です。
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