古典的なストーリーを現代的にリメイクした作品『ともだち?』

 
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【データ】
・作品名: ともだち?
・作者: 作/うえのよし(上野与志)、絵/さとうのぶこ
・出版社: リーブル
・発売年月: 2021年8月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 36ページ
・サイズ: 縦21.5cm x 横19cm
・絵と文の比率: おおよそ 9:1 1ページ当たりの文字数は40字ほど
・対象年齢: 5歳~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: なし
・ルビの有無: ー
・分かち書きの有無: あり
・縦書き、横書き: 横書き

【作者】
うえのよし(上野与志)は東京都生まれの絵本作家、童話作家。他に『さがりめのニャン!』『わんぱくだんのりゅうぐうじょう』などで知られる。
さとうのぶこは、東京生まれのデザイナー。当作品が初めての絵本。

【内容紹介】
おおかみのロウロウは、しゃべるのが苦手でいつもひとりぼっち。友達を作るため、マラソン大会での優勝を目指す。2番目を走っていると、先頭にいたキツネのツネがお腹を痛めて倒れているのを見つけた。ロウロウは放っておけず、ツネを背中に乗せ、ゴールを目指すが……。

【レビュー】
〈作品の主題〉
『ともだち?』というタイトル、語り手のオオカミの序盤の描写から、絵本としてありがちな、「見た目で恐れられているオオカミが、みんなの前で“道徳的”なことをして友達として受け入れられる」といった物語と思いきや、いい意味で裏切られる。互いに気持ちを理解し合うことの楽しさ、してしまったことを反省し、ひたむきな態度で向き合うことの大切さを伝えている。

〈ストーリー〉
ロウロウは、友達を作ろうと挑んだマラソン大会で、キツネのツネを背中に乗せ、ゴールを目指す。ゴール付近でツネに背中から降りられ、優勝を奪われる。ツネは周囲から喝采され、ロウロウは行き場をなくす。

夜になり、ロウロウのもとにツネが謝罪にやってくる。自らの行動を悔い、心が小さいと恥じるツネだが、ロウロウは、心を大きくするため遠吠えしようと提案し、共に月に向かって吠える。もやもやとした気持ちを晴らし、友情を確認するシーンで非常に魅力的。

また、シングルマザーと思われる母から、月に向かって遠吠えすると心が大きくなるよ、と教えられ、遠吠えを行うシーンは開放的で素敵だ。

〈絵と文〉
絵は大きな書きぶりで少し見づらいが味わい深い。オオカミのロウロウの心情を表す絵が魅力的で、森の動物達の絵も生き生きと描かれている。

リズミカルに読める文が心地よく、よみ聞かせにも適していると思う。

〈キャラクター〉
マラソン大会において、ねずみ、またうさぎと亀が参加している。これらは『十二支』『うさぎとかめ』の物語を意図的に踏襲し、かつ読者にあえて連想させている。

『十二支』『うさぎとかめ』はともにある種、対立的な終わり方をする。誰もが知っている話だろうが一応説明しておくと、『十二支』は、ネズミが牛の背中に乗り、自分で走らないで勝つ。ねずみに嘘の日付を教えられた猫は十二支に入れず、そのため猫はいつだってネズミを追い回す――。といった話だ。

『うさぎとかめ』は、先を走ったうさぎが余裕たっぷりに居眠りを始める。その間にカメは進み、ウサギが目を覚ましたとき、ゴールで大喜びをするカメの姿があった――。 という話だ。

『ともだち?』は、どちらの話にも影響を受けながら、他者と心を通わせることの楽しさ、自らを省みて悪い行いを正すことの大切さを伝えている。悪役を作らない構成もいい。現代的にリメイクしているともいえ、古典的なストーリーが求められがちな絵本芸術を望ましい方向へ発展させている良質な作品だ。

〈製本と出版〉
文字の大きさはふつう。黒、または白の字で描かれている。背景の絵と文字が重なって読みづらく感じる箇所がある。また、フォントにもう少し工夫があったほうがいいと思う。

【評点】


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