黒人差別と未来へ託すバトン『わたしとあなたのものがたり』

 
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【データ】
・作品名: わたしとあなたのものがたり
・作者: 文/アドリア・シオドア、絵/エリン・K・ロビンソン、訳/さくまゆみこ
・出版社: 光村教育図書
・発売年月: 2022年6月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 30ページ
・サイズ: 縦26cm × 横21cm
・絵と文の比率: おおよそ 8:2 1ページ当たりの文字数は80字ほど
・対象年齢: 小学校5年~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: あり
・ルビの有無: 部分的にルビ
・分かち書きの有無: なし
・縦書き、横書き: 横書き

【作者】
アドリア・シオドアは、アメリカ出身の小児科医。本作が初めての絵本。
エリン・K・ロビンソンは、アメリカ在住のイラストレーター。他に、『A Library』『Brave. Black. First』がある。
さくまゆみこは、東京都出身の編集者、翻訳家。主な作品に『オノモロンボンガ』『子どもの本で平和をつくる』など多数。
【内容紹介】
クラスで茶色い肌の子どもは、わたしひとりだけ。奴隷制について勉強したとき、みんながわたしをじっと見ているような気がした。だから、むすめのあなたと同じ気もちだったことを伝えておきたいの。あなたは、勇気やたくましさ、知性、創造する力をもっていることを。

【レビュー】
〈作品の主題〉
“わたし”の目線で“あなた”に伝える、祖先から繋がる人種差別の歴史。そして、あなたには、どうどうと空高く羽ばたいていってほしいというメッセージ。
大事なのは他の人にどう見られるかではなく、自分自身の思いを大切にし、あなたが望めばなんにでもなれると伝える絵本。
〈ストーリー〉
“わたし”の人生を振り返りながら、祖先から伝わる黒人差別の出来事を振り返りながら、あなたに語りかける絵本。
クラスでたった一人の茶色の肌の“わたし”は、黒人の歴史についての授業の際、注目が集まり孤立していてしまう。他者とみなされることの思いを、祖先が受けた出来事とともに振り返るストーリーとなっている。

奴隷として生まれた直系5親等の女性(作中での表記は「わたしの母さんのおばあちゃんのおばあちゃん」)から、自由人として生まれたが、十分な教育を受けられなかった曾祖母、ジム・クロウ法があったころに生きた母――。
繰り返し表現で、なくならない差別の歴史を顧みながら、“わたし”が自分自身を見つめていく過程が描かれている。そして、娘である“あなた”に力強く未来を生きてほしいと望む。
作品における“あなた”とは、語り手の娘だが、読者に対しての呼びかけのようにも感じる。
娘に対して思う“わたし”の次の世代への祈りは、マジョリティの変化を促すものと読める。日本にも当然人種差別はあるし、この物語の持つ反差別のテーマは在日外国人差別や部落差別にも共通する。

差別をなくすための歴史を知る授業によって、当事者に好奇心から始まる注目が集まり、追い込むことがあるというのは、新しい視点に感じ、今までの価値観が変わるような考えさせられるシーンだった。
笑い声や視線がクラスメイトなど身近な人にどのような影響を与えるか、どういった伝え方が必要かを考えるきっかけとなる絵本。
〈絵と文〉
絵はデジタル感が強く親しみやすいかというと微妙だが、目に力強さがあって、作品の雰囲気に合っている。

文章は過剰な役割語が気になる。“わたし”の語りで物語は進むが、「○○なのよね」、「○○なのよ」と女性言葉が多用される。
差別を受けながらも、力強く生きて、学び、医者となった“わたし”の語りには合っていないように感じた。

〈キャラクター〉
黒人で女性のダブルマイノリティに焦点を当てて紡がれた物語。
“わたし”は、祖先の女性たちが受けた差別を振り返りながら、「だから、学校で勉強できるのは、ありがたいことなのよね。」と、繰り返し感謝する。
学ぶことは当然の権利で、感謝する必要はないと思うが、祖先の凄惨な体験を思っての言葉だろう、誰でも自由に学べる環境の重要性が伝わる。

“わたし”が3年生の時、金持ちそうな男の子に、リンカーンがいなかったら、お前はまだ俺たちの奴隷だった、と言われるエピソードが描かれている。
直球の差別をぼかさずに書くのは、絵本という非常に若い読者が想定される表現媒体では、「配慮」されることが多いが、避けずに明確に描くこともまた、非常に重要な表現に感じた。

〈製本と出版〉
ルビのない漢字も多く、奴隷の歴史やキング牧師、公民権運動といった人種差別の解消を求めたワードが注釈なしに出るため、対象年齢はそれなりに高く設定された絵本のようだ。
当サイトでの対象年齢は、小学校5年~とした。

文字が背景の絵と重なり読みづらい箇所が一部にある。


【評点】


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