難民への差別や地球温暖化に伴う気候変動を描く『もりにきたのは』

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【データ】
・作品名: もりにきたのは
・作者: 作/サンドラ・ディークマン、訳/牟禮あゆみ
・出版社: 山烋/春陽堂書店
・発売年月: 2021年9月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 25ページ
・サイズ: 縦23.5cm × 横27.5cm
・絵と文の比率: おおよそ 9:1 1ページ当たりの文字数は70字ほど
・対象年齢: 5歳~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: なし
・ルビの有無: ー
・分かち書きの有無: あり
・縦書き、横書き: 横書き

【作者】
サンドラ・ディークマンはドイツ生まれイギリス在住の絵本作家、イラストレーター。本作が初めての絵本。
牟禮あゆみは滋賀県生まれの翻訳者。本作が初めての絵本。

【内容紹介】
白い動物が、海に流されて森にやってきた。それは、森の動物たちが初めて見る生き物だった。そして、その白いやつは、丘の上にある洞穴に住み着き、葉っぱを集めはじめた。奇妙な行動に恐れ、動物たちは彼を葉っぱという意味のリーフと呼ぶようになる。ある日、リーフはその葉っぱを体中につけて空を飛ぼうとする。
【レビュー】
〈作品の主題〉
森の動物たちから“しろいやつ”や“リーフ”と呼ばれる動物はホッキョクグマだが、森の動物には“他者”とみなされ理由もなく避けられる。

そんな独りしょんぼりしているホッキョクグマを見て、放っておけないと感じたカラスは話しかける。理解と思いやりを深めるその行動で、カラスはホッキョクグマと森の住人を結びつけることになる。

見知らぬ者と話をする展開は、コミュニケーションの重要性と、はじめの一人になる勇気の大事さが表現されていて、不慣れな人に対する恐れから始まる差別をなくす出発点となる。

〈ストーリー〉
ホッキョクグマが氷に乗って独り森に到着すると、森の動物たちは彼を恐れて、避けるようになる。これらは外国人排斥や、難民及び移民に対する差別が連想される。

また、ホッキョクグマが森に流れ着いた理由も、北極の氷が溶けたことが理由で、地球温暖化に伴う気候変動が絵本のテーマにある。説教臭くならないようさらっと記されている。シンプルでありながら、重要なメッセージを含むストーリーがうまく描かれている。

動物たちは、ホッキョクグマが葉っぱばかりを集めるという理由で、更に不信感を募らせ、リーフと名付けるが、あまりいい名付け方ではない。最後までリーフと呼ばれ続けるので、名前で呼ぶことで他者を身近に感じる第一歩を表現したかったのかもしれないが、いじめや差別で用いられる嫌なあだ名の付け方に近いので少し引っかかる。リーフが名前を打ち明け、動物たちに本名で呼ばれる展開があればいいなと思った。

〈絵と文〉
文章は動物たち全体の目線のように書かれている。ホッキョクグマに対し、あいつ、そいつ、白いやつといった、絵本としてはやや乱暴な呼び方をする。“よそもの”である彼に対して言う、排外的な言葉の数々は、残酷だが現実にあるものだ。

見慣れないものを恐れる差別性を、割と大胆に表現しながら問題点を伝えている。ただ読者にトラウマを与えるようなものではなく、表現の工夫が見られる。

絵はみていて飽きない幻想的なもの。社会的な視点が表現されている絵本なため、対比しているようにも読める。細かい発見も多く繰り返し楽しめる。
〈キャラクター〉
リーフの孤独を救うのは、割に悪役に用いられがちなカラスで、紋切り型になりがちな絵本文化に風穴を開けるいい表現だと思う。また、現実の人種差別を助長させないよう、マジョリティとマイノリティの立場を逆転させ、白いホッキョクグマを来訪者、黒いカラスを心優しいキャラにしたのだろう。

〈製本と出版〉
文字の大きさはふつう。黒または白の字で書かれている。一部セリフが手書きで書かれているが、特に読みづらくはない。背景の絵と文字が重なり読みづらい箇所が一部ある。

【評点】


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