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絵本は、物語や文の難解さ、文章量、ひらがなと漢字の使用基準などで対象年齢が決まります。
絵本は子どもだけのものと思われがちですが、多くの絵本には、高い芸術性や文学的価値が備わっているので、対象年齢が4歳以上であるなら、その絵本は4歳以上の全ての読者が対象となるでしょう。そして幼い時に感銘を受けた絵本は、しばらくたってもう一度読んでも、当時と同じように心動かされるものです。
以下ではそんな、大人が読んで楽しめる、優れた絵本を紹介します。
なお、当サイトでは上記の理由等から、「大人向け絵本」という限定する表記は行っていません。また、「絵本っぽさ」を利用しただけの陳腐な作品を評価していません。
1.『こねことコート』
(みらいパブリッシング)作/いわたきよみ
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『こねことコート』は、猫の親子の物語です。秋も近づいたころ、母親は子どもに素敵なコートを買ってあげます。受け取った子どもは、「はやくこれを着てお出かけしたいなあ」と、うれしくてたまりません。
日々は過ぎますが、ある時、お母さんが風邪を引いて倒れてしまいます。働きはじめた子どもは、毎日に一生懸命で、飛ぶように時間が流れていきます。
そんなある日、子どもは母親に買ってもらったコートのことを思い出します。
親子の愛と、時の移り変わりを描いた作品です。絵を“読み”読者が想像し発見する作品です。
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2.『マイロのスケッチブック』
作/マット・デ・ラ・ペーニャ、絵/クリスチャン・ロビンソン、訳/石津ちひろ
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『マイロのスケッチブック』は、見かけだけで人を判断する問題点と、偏見に気付く少年の成長を描いた絵本です。
少年マイロは同じ電車に乗った人を想像し絵を描きます。しかし描いたばかりの絵が気に入らなくて、スケッチブックを閉じました。そして窓に映る自分の姿を見て、人はどんなことを想像するのだろうかと考えます。
想像力の無限の可能性を描いた絵本は多くありますが、読者を想像の楽しさから一歩先へ導く作品です。先進性と思いやりに溢れた非常に優れた絵本です。
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3.『キオスク』
(潮出版社)作/アネテ・メレツェ、訳/くろさわあゆみ
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『キオスク』は、とても大きな体のため、キオスクに入って出られなくなってしまった女性、オルガの物語です。
ツッコミどころを探そうと思えばいくらでもおかしな箇所はありますが、その辺を気にさせず物語が流れていきます。予想のつかない出来事が連鎖し、思いがけず夢を叶える展開で、どんな状況でも笑顔で前向きな主人公、オルガになんだか救われる、不思議な魅力がある作品です。
オルガの体は大きく、それが理由にキオスクから出られない設定ですが、特別太っていることを茶化す表現がなく、生き生きと描かれているのがとてもいい所です。不幸な出来事があっても気にせずに、目まぐるしい展開を笑顔で乗り切るオルガはとても素敵に描かれています。
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4.『迷子の魂』
(岩波書店)文/オルガ・トカルチュク、絵/ヨアンナ・コンセホ、訳/小椋彩
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『迷子の魂』は、ポーランド生まれのノーベル文学賞作家、オルガ・トカルチュクが描く、忙しすぎて魂をなくしてしまった男、ヤンの物語です。ヤンはあるとき記憶を失ったため、賢い老医師を訪れます。医師の「魂が動くスピードは、身体よりもずっと遅いのです。あなたはじっくりじぶんの魂を待つべきです」という助言に従い、ヤンは「迷子の魂」をじっと待つことにします。
忙しく働きまわる人生から、いったん立ち止まり、じっと身を落ち着かせることで得られる幸福を教えてくれる絵本です。
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5.『ニッキーとヴィエラ』
(BL出版)作/ピーター・シス、訳/福本友美子
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『ニッキーとヴィエラ』は、ナチス・ドイツからたくさんの子供を救ったイギリス人、ニッキーと、そのニッキーに救われたチェコスロバキアに住むユダヤ人の少女ヴィエラの物語です。
ストーリーはニッキーのエピソードとヴィエラのエピソードが交互に展開し、やがてシンクロする構成になっています。第二次世界大戦やホロコーストが描かれている絵本で、難民の受け入れを考えるきっかけになる絵本でもあります。
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6.『ながみちくんがわからない』
(BL出版)作/数井美治、絵/奥野哉子
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『ながみちくんがわからない』は、少女、“わたし”が、何を考えているのか、さっぱりわからない、同じクラスのながみちくんを、「研究」する物語です。
学校の帰り道、“わたし”は、ながみちくんのあとを歩くことにします。ながみちくんは、かさ立ての下から取り出した石をけりながら歩きはじめます。
ながみちくんの行動を見て様々なことを想う“わたし”の多様な感情や、ながみちくんの不思議さは、紋切り型でない子どもの描写で、その、キャラにならない「人間」的な様子がとても印象に残る絵本です。
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7.『オオカミ県』
文/多和田葉子、絵/溝上幾久子
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『オオカミ県』は、大変に興味深い世界観と現代への風刺が匠に表現されたディストピアを描いた絵本です。
不思議な物語を構築する世界観に興味がそそられる作品です。例えば、オオカミ県は狐や兎の毛皮を東京に輸出し利益を得ています。「オオカミカフェ」では、オオカミの糞を燃料にしてコーヒーを沸かしていますし、語り手の母が勤めているのは「バー肉食亭」です。
オオカミ県出身の"俺"が、ある目的のため「オオカミ」になる決断をする物語で、マイノリティに対する差別と権力の横暴を、動物と架空の日本を用い、シュールでブラックユーモアの利いた警鐘を鳴らしています。
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8.『かなしみのぼうけん』
(ポプラ社)作、絵/近藤薫美子
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『かなしみのぼうけん』は、子どもが、亡くなった愛犬との思い出を大切にしながら前を向く物語です。
子どもは悲しみを抱えながら三輪車をこいで、森を越え、山を越え、川を渡ります。愛犬の死からそれを受け入れるまでの心情の変化の過程が、ダイナミックに描かれています。ペットの死と、もう一度会いたいと願う割り切れない気持ちを救う作品です。
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9.『しずかな夏休み』
(光村教育図書)作/キム・ジヒョン
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『しずかな夏休み』は大自然を楽しむ男の子の文字のない絵本です。文字のない絵本のため、対象年齢は幅広いですが、どちらかと言うと、思い出を刺激しながら、過ぎ去った昔を懐かしむことを目的としたような絵本です。
ある夏、家族と一緒に田舎へ行った男の子が、犬を連れて木が生い茂った森を抜けると、その先には、美しい湖が広がっていました。男の子は湖に飛び込むと、魚たちと一緒に泳ぎます。
田舎に帰るというストーリー、思い出を呼び起こすような白黒に近い絵、家族の団らんを強調したような絵などからも、ノスタルジーに浸れる絵本です。
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10.『ダーラナのひ』
(偕成社)作/nakaban
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『ダーラナのひ』は、旅の途中、浜辺にたどりついたダーラナの物語です。浜につくと流れ着いていた木の枝が「ダーラナ、ダーラナ。私たちを集めてごらん。焚き火をして、温まっていきなさい」とささやきました。
集めた枝に、夕日のかけらがはじけ飛んで、小さな火が付くと、ダーラナは竹を使って息を吹きこみ火を大きくします。りっぱな焚き火を作ったダーラナは、火を見つめながらいつか見た広い野原を思い出します。
焚き火を見た時に感じる、落ち着いて安らぎを得られる感覚が描かれている素敵な絵本です。
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