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【データ】
・作品名: ながみちくんがわからない
・作者: 作/数井美治、絵/奥野哉子
・出版社: BL出版
・発売年月: 2021年12月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 31ページ
・サイズ: 縦24.5cm × 横18.5cm
・絵と文の比率: おおよそ 6:4 1ページ当たりの文字数は200字ほど
・対象年齢: 小学校3年~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: あり
・ルビの有無: 部分的にルビ
・分かち書きの有無: なし
・縦書き、横書き: 縦書き
【作者】
数井美治は群馬県出身、千葉県在住の作家。
奥野哉子は大阪生まれ、大阪在住の画家。
作家、画家ともにデビュー作となる。
【内容紹介】
わり算はわりきれるほうが好き。でも、わりきれない男の子がいる。同じクラスのながみちくんだ。何を考えているのか、さっぱりわからない。“わたし”は、ながみちくんを研究しようと、学校の帰り道、ながみちくんのあとを歩くことにする。ながみちくんは、かさ立ての下から取り出した石をけりながら歩きはじめた。
【レビュー】
〈作品の主題〉
“わたし”がながみちくんに対して感じる、言葉では言い表せない気持ちが描かれている絵本。
わたしはながみちくんを「研究」している。「研究」というワードを用いる辺りにわたしの少し大人びた自信のようなものと、ながみちくんに対して冷静さを装うように一定の距離を取りたがっているのがうかがえる。
そんなわたしが、掴みどころがなくあけすけな子に対して感じる、初めての戸惑いと惹かれていく様子が丁寧に描かれている作品。
〈ストーリー〉
下校途中、ながみちくんは、自分のけった石をなくしてしまうが、“わたし”は、「ヒマなので手伝ってあげる」として石の捜索を手伝う。少し自分を欺いているようにも解釈できて魅力がある。
舞台は秋で二人の下校途中の空は、うろこ雲から茜色の空へと移り変わる。
空模様がわたしの心情を反映しているようで、当初ながみちくんに対して思う、彼が何を考えているのか「わからない」、もやもやとした気持ちから、ながみちくんに対して惹かれていく自分の気持ちが「わからない」へ移り変わっていくことを表していると解釈できる。
この絵本のような登下校や教室の様子を描いた作品は、割と作為的にノスタルジックな雰囲気で描かれることが多いが、あけすけなながみちくんと、ながみちくんを「研究」するわたしの会話は、矛盾するような表現だが、「自然なぎこちなさ」がある。
また、「あまり」という算数の表現を効果的に使っていたり、ランドセルがカタカタと鳴ったりするといった、ひとつひとつの微細な描写が、登場人物たちを立体的にして、小学生本人の目線で語られたような現実味のある作品となっている。
終盤のシーンに呼応している場面ではあるが、手を伸ばした先で二人の手と手が触れるという陳腐な描写がある。ただストーリー展開はうまくまとまっていて読後感もよく、じんわりと胸に伝わる心地よさがあった。
〈絵と文〉
下校途中の多くのページで猫の絵が描かれているが、猫はストーリーには一切関わってこない。
二人が猫に気を取られないほど出来事に集中していることを表現しているのかな、とかも考えたが、実際は大した意味もなさそうで、とりあえず昨今の猫人気に乗じて、猫でも書いておけば“絵本”らしさが出るだろうといった底が浅いありきたりな描写に感じてしまった。
“わたし”の心情を表す文は小気味よく書かれていて読んでて楽しい。絵本というよりか児童文学寄りで、小説的な文章に慣れるための一冊目の絵本に適していると思う。
〈キャラクター〉
小学生の女の子の語りとして進むため、失くした石をおそるおそる探しているときに「おっかなびっくり」というワードが出た際は、こんな言葉を使う子どもがいるのかとちょっと疑問に思った。
一方で、ながみちくんの行動を見て様々なことを想う“わたし”の多様な感情や、ながみちくんの不思議さは、紋切り型でない子どもの描写で、その、キャラにならない「人間」的な様子がとても印象に残る。
〈製本と出版〉
割に珍しい縦書きの絵本。かなり明確に対象年齢を絞った作品で、小学校3年生で習う割り算とその「あまり」という言葉が物語のキーとなっているために、それなりにハイコンテクストな絵本となるが、その分焦点を絞った表現で登場人物と物語に深みが出ているように感じる。漢字の振り仮名の基準も3年生向けのようだ。
【評点】
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