亡くなった愛犬、ペットの死から前を向く物語『かなしみのぼうけん』

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【データ】
・作品名: かなしみのぼうけん
・作者: 作、絵/近藤薫美子
・出版社: ポプラ社
・発売年月: 2021年2月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 34ページ
・サイズ: 縦27cm
・絵と文の比率: おおよそ 9:1 1ページ当たりの文字数は10字ほど
・対象年齢: 6歳~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: なし
・ルビの有無: ー
・分かち書きの有無: あり
・縦書き、横書き: 横書き

【作者】
近藤薫美子は大阪府生まれの絵本作家。主な作品に『むしホテルとなぞのちかしつ』『せかいかえるかいぎ』がある。

【内容紹介】
今日、愛犬のキャンディが死んだ。悲しみを抱えながら三輪車をこいでいく。森を越え、山を越え、川を渡る。キャンディの死を受け入れるまでの子どもの心情を描いた絵本。

【レビュー】
〈作品の主題〉
亡くなった愛犬との思い出を大切にしながら前を向く物語。愛犬の死からそれを受け入れるまでの心情の変化の過程が、ダイナミックに描かれている。ペットの死と、もう一度会いたいと願う割り切れない気持ちを救う作品。

〈ストーリー〉
ほとんどが絵で構成された絵本。そのため解釈の余地は広い。

語り手の子どもは三輪車で犬の影を追う。この描写は忘れられない愛犬を求める感情の表れだ。この道は愛犬とともに歩いた散歩道だろうか、やがて野原で犬の影と向き合うが、子どもは犬の影を追い越し走っていく。辛い思い出を忘れようとし振り切るさまにみえる。しかし犬の影は子どもを追いかけていき、やがて重なり合う。

忘れることのできない子どもの思いが伝わる。悲しみの涙があふれて、子どもは愛犬の死を受け入れる。

〈絵と文〉
絵は少し不気味に思う読者もいるかも知れないが、死を受け入れられず、心がぐちゃぐちゃになった少年の心情がうまく表現されている。

多くのページで犬の絵が逆さまに描かれている。犬の絵は子どもの思い出であり、かつ寄り添うように描かれていて心打たれる。発見する楽しさもあり、繰り返し読んで楽しめる。

〈キャラクター〉
三輪車をこぐ子どもの表情は一切描かれていないが、心情を表した背景の絵を見ればよく分かる。読者の想像力、美的感覚、共感性などを発展させる優れた表現だと思う。

〈製本と出版〉
タイトルの『かなしみのぼうけん』は安易な感動絵本を思わせるが、内容は異なる。
文字がほとんどない絵本。字の大きさはふつう、読みづらいと感じる箇所はない。

【評点】


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