学校に行けなくなった少女を救うひと夏の思い出『海のアトリエ』

書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします(試し読みあり)

【データ】
・作品名: 海のアトリエ
・作者: 作/堀川理万子
・出版社: 偕成社
・発売年月: 2021年5月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 32ページ
・サイズ: 縦21.5cm × 横28cm
・絵と文の比率: おおよそ 8:2 1ページ当たりの文字数は100字ほど
・対象年齢: 小学校1年~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: あり
・ルビの有無: 総ルビ
・分かち書きの有無: なし
・縦書き、横書き: 横書き

【作者】
堀川理万子は東京生まれの画家、絵本作家。主な作品に、『ひとがつくったどうぶつの道』『けしごむぽんいぬがわん』など多数。

【内容紹介】
おばあちゃんが話してくれたのは、海辺のアトリエに暮らす絵描きさんと過ごした夏の日のことだ。いやなことがあって学校にいけなくなっていた夏休みに、海のそばの家にひとりですんでいる絵描きさんのところへ1週間、行くことになった。

【レビュー】
〈作品の主題〉
少女“わたし”が、おばあちゃんの部屋で女の子の絵を見て「この子はだれ?」と聞いたことから、おばあちゃんが絵描きさんとアトリエで過ごした特別な思い出を語り始める。人生の支えとなる特別な出来事を描いた作品。

〈ストーリー〉
控えめな美しさがある物語。
絵描きさんとあたし(おばあちゃん)は、創作料理を食べたり、本を読んだり、不思議な体操をしたり、水着を着て海に出かけたり、美術館に出かけたりなど様々なことをともに体験する。

その自由で楽しそうな、一見関連性のない様々な出来事が影響し合い、事情により学校に行けなくなった、おばあちゃんを救い、将来に影響を与えているようで読んでいて大変心地いい。心が洗われるような読後感がある。

〈絵と文〉
居心地のいい部屋と少女が話すおばあちゃんの部屋には、夫の遺品と思われるネクタイ、オウムや飼い犬、カメラ、ペンギンやクマの人形といった様々な小物が描かれていて、おばあちゃんのこれまでの人生が垣間見えるようで、想像する楽しさがある。

英語の先生をしているおばあちゃんの本棚には、岩波文庫の赤、白水Uブックスのチボー家の人々、岩波書店の漱石全集、講談社の内田百閒全集が置かれている。

また、絵描きさんの家には、グレン・グールドのインヴェンションとシンフォニアが立てかけられている。想像のヒントとなるような、世界を彩る小さな装飾の数々が巧みに描かれている。

文のほとんどは少女とおばあちゃんの自然な会話で構成されている。読みやすく親しみやすい。読み聞かせにも適していると思う。
〈キャラクター〉
絵描きさんは心優しい人だが、子供に対して多く干渉せず、二人は自由にのびのびと暮らす。まるで友達のような様子が大変ほほえましい。

なお、おばあちゃんの一人称は“あたし”だが、絵描きさんや少女は“わたし”と自称する。この小さな工夫がキャラクターを際立たせ、物語をより立体的にしている。

〈製本と出版〉
文字の大きさは小さめ。黒または白の字で書かれている。文字と背景の絵が重なる箇所があるが、読みづらい部分はない。

【評点】


【関連する絵本、コラム】