猫の親子の愛と、時の移り変わりを描いた絵本『こねことコート』

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【データ】
・作品名: こねことコート
・作者: 作/いわたきよみ
・出版社: みらいパブリッシング
・発売年月: 2021年6月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 24ページ
・サイズ: 縦26cm × 横19cm
・絵と文の比率: おおよそ 9:1 1ページ当たりの文字数は50字ほど
・対象年齢: 小学校1年~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: あり
・ルビの有無: 総ルビ
・分かち書きの有無: なし
・縦書き、横書き: 横書き

【作者】
いわたきよみは岐阜県在住の絵本作家。本作が初めての絵本。

【内容紹介】
ねこの親子の物語。秋も近づいたころ、母親は子どもに素敵なコートを買ってあげる。「はやくこれを着てお出かけしたいなあ」子どもはうれしくてたまらない。

日々は過ぎるが、ある時、お母さんが風邪をひいてたおれてしまう。働きはじめた子どもは、毎日に一生懸命で、飛ぶように時間が流れていく。
そんなある日、子どもは母親に買ってもらったコートのことを思い出す。
【レビュー】
〈作品の主題〉
夏に母親にコートを買ってもらったときは、サイズが大きくぶかぶかで、子どもは早く着たいと願う。しばらくして、コートのことを思い出した子どもは、実際に着てみるが、コートは小さくサイズが合わない。子どもは、すっかり大人になってしまったと、あっという間に時間が過ぎたことを悟るが……。
親子の愛と、時の移り変わりを描いた作品。

〈ストーリー〉
サイズの合わない小さなコートを着て、子どもは、すべてが移り変わっていく、変わらないものなんてなにひとつないと思いながら、春の空を見上げ物語は結ばれる。子どもながら、なかなか深いことを考えるシーンで、一見、この絵本のメッセージといった感じがするが、実際は異なる。

この子どもの考えは誤りで、作中、子どもが寝ている間に母親がコートを直している様子が描かれている。つまり、コートのサイズが小さいのは子どもが成長したからだけではなく、母親が小さくしていたわけで、読者のみがその真実を知る。

また、当初子どもがコートを着たときに、ぶかぶかであることも、母親がコートを直していることも、文章では書かずに絵だけで表現している。また、終盤に子どもがひとり考えるシーンでも、それらのことに言及したり説明をしていない。絵を“読んだ”読者が想像し発見する作品でかつ、絵本という表現媒体の特徴を活かした描写で非常に巧みに感じる。

基本的には文と絵が調和し進みが一致しているものが優れた絵本とされるが、その読書の仕方を逆手に取ったような工夫がある。猫人気に乗っかった量産型猫絵本とは一線を画す、というか次元の違う大変すぐれた作品。
〈絵と文〉
背景の絵に描かれている多くの小物、世界観を彩る奇妙な街並み、植物や生き物のイラストは非常に美しい。

文章は読みやすく、ですます調で読み聞かせにも適しているだろうが、多くを語らず解釈を読者に任せている辺りから見て、おそらくそれなりに成長した読者に向けて書かれた絵本だろう。当サイトでの対象年齢は漢字や文章からみて小学校1年~としたが、低学年の読者は読書に慣れていないと難しいかもしれない。中学年以上なら問題なく楽しめるはず。
〈キャラクター〉
上記したように、子どもがサイズの合わない小さなコートを着て、すべてが移り変わっていく、変わらないものなんてなにひとつないと思うシーンは、子どもの勘違いに基づくものだが、一方で、当然ながら子どもの気持ちは、彼にとっての真実(本心)である。そして、このシーンで描かれる“変化”は母親の死と解釈できる。
短い物語に多角的に要素を盛り込みながら、美しくまとめている。
〈製本と出版〉
タイトルは「こねことコート」。韻を踏んだタイトルで記憶に残る。
文字の大きさはふつう。背景の上に文字が書かれている。文字が読みやすいように際立つ処理がされているが、一部背景の絵と重なり読みづらい箇所がある。

【評点】


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