ナチスから子供を救った男とホロコーストから逃れた少女『ニッキーとヴィエラ』

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【データ】
・作品名: ニッキーとヴィエラ ホロコーストの静かな英雄と救われた少女
・作者: 作/ピーター・シス、訳/福本友美子
・出版社: BL出版
・発売年月: 2022年3月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 55ページ
・サイズ: 縦31cm × 横23.5cm
・絵と文の比率: おおよそ 9:1 1ページ当たりの文字数は60字ほど
・対象年齢: 小学校3年~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: あり
・ルビの有無: 部分的にルビ
・分かち書きの有無: なし
・縦書き、横書き: 横書き

【作者】
ピーター・シスはチェコスロバキア生まれの絵本作家。他に、『ロビンソン』『夢見る人』などで知られる。
福本友美子は東京都出身の翻訳家。 主な作品に、『アフガニスタンのひみつの学校 ほんとうにあったおはなし』『おさるのジョージ』シリーズなど多数。

【内容紹介】
第二次世界大戦中、ヒトラーの率いるナチス・ドイツ軍に、たくさんのユダヤ人が殺された。銀行で働くイギリス人ニッキーは、チェコスロバキアに住むユダヤ人の子どもたちをイギリスへ逃がす。一方、チェコスロバキアに住む少女ヴィエラは、戦争の始まりを恐れ難民としてイギリスへ向かう。

【レビュー】
〈作品の主題〉
自分のしたことを誰にも言わなかった謙虚な英雄ニッキーと、彼に救われた669人の子どもたちの一人で、難民としてイギリスへ逃れた女の子、ヴィエラの物語。
ニッキーの功績を、等身大に読める一人の少女ヴィエラに焦点を当てて分かりやすくしている。忘れてはならない歴史を伝える作品。

〈ストーリー〉
ストーリーはニッキーのエピソードとヴィエラのエピソードが交互に展開し、やがてシンクロする構成になっている。
第二次世界大戦やホロコーストに関連する絵本だが、今読むとロシアによるウクライナへの侵略に重なる。虐殺や危機から逃れるために、家族と離れなければならない子供たちが世界中にいるが、日本は難民の受け入れに消極的だ。

難民とは戦争や差別、宗教や貧困などといった事情で、国を離れなければならなくなった人たちのことで、難民の人たちには当然人権があり、差別からの保護と働く権利が与えられる。

この絵本で描かれているニッキーことニコラス・ウィントンや、オスカー・シンドラー、杉原千畝が成し遂げたことは称賛され、自分がその状況に置かれた際に、彼らのように行動できるかを問う話は多いが、一方で実際に事情を抱え難民として逃れてくる人々に対して、突き放す主張をする者が多いのはなぜだろうか。
難民の受け入れを考えるきっかけになる絵本でもある。

〈絵と文〉
細緻に描かれた箇所とデフォルメされた絵、温かみのある色のページと淡い色合いのページなどが混在しているが、悲惨な戦争や家族との離別、月日の流れなど多くの出来事を印象的にするイラストでほかにない魅力がある。

文章は一点翻訳上の問題がある。ヴィエラがロンドンに到着したページには“汽車は3日3晩走りつづけ やっとロンドンにつきました。”とある。
まるで当時イギリスとチェコスロバキアが陸路で繋がっているかのような記述だ。作中描写されていないが当然、途中船での移動を挟む。調べたところオランダのフックファンホランドからイギリスのハリッジまでの船移動だったようだ。
原文では、“After three days and nights, they arrived in London.”と書かれているため、翻訳の過程で汽車に関する部分を付け加えたことになる。より分かりづらくなるし不要に感じる。
ちなみに、英仏海峡トンネルを通りイギリスとフランスを行き来する鉄道、ユーロスターが開業したのは1994年。ユーロスターと勘違いしたとは思いたくないけど。

※追記。レビュー公開後、出版社編集部より連絡があり、重版時に修正されるとのこと。

〈キャラクター〉
タイトル通りニッキーとヴィエラの物語だが、伝記の絵本のため仕方ないとはいえ、二人のセリフがほとんどないのは少し残念に思った。
ニッキーはフェンシングが上手いといった話や、ヴィエラがおばあちゃんの世話をしてあげたといった小さなエピソードが、二人に奥行きを与え、より実在の人物たちの実際にあった出来事と感じさせる、丁寧な描写に感じた。

〈製本と出版〉
大きなサイズの絵本。ページや配置によって文字の大きさが異なり少し読みづらい。書体はニッキーを描くページではゴシック体で、ヴィエラのページでは明朝体で書かれている。
背景の絵と文字が重なり読みづらい箇所がある。

第二次世界大戦やホロコーストが描かれている絵本で、対象年齢はそれなりに高め。ルビが振られていない漢字も多く、おそらく10歳のヴィエラの年齢に合わせた基準で書かれているようだ。当サイトでの対象年齢は、小学校3年~とした。
ホロコーストを知る一冊目の絵本に適している。

【評点】


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