Tweet
Tweet
メディアでは環境の話題に焦点が当てられがちですが、「ジェンダー平等を実現しよう」「貧困をなくそう」「人や国の不平等をなくそう」など性差や格差に関する目標もあります。
以下では、SDGsに関連する絵本を10作品紹介します。
1.『わたしたちの森』
(ポプラ社)作/ジアナ・マリノ、訳/小手鞠るい
『わたしたちの森』は、世界中で発生している大規模な山火事を、鹿の語りで描いた絵本です。動物たちの恐怖をもって、人々が森とどう付き合っていくか、山火事による被害と森と動物たちの再生を描いています。
山火事は森が維持されるために欠かせないものであって、山火事があることで生まれてくる生命体もいます。定期的な山火事は森にとって必要不可欠なことですが、大規模な森林火災の主な要因に、地球温暖化による気候変動があります。
普段から小さな火が発生しても、すぐに消防が消してしまうために、森に低い草木が密集し、大規模な森林火災を防げない森にしてしまっているのもまた、人の介入が理由です。
山火事による動物たちの苦しみ、悲しみを描きながら、新たな生命の芽吹きへ展開し、森の再生へと至るストーリーで、説明的にならずに「人と森」の関係について考えさせられる物語です。
(当サイトでの詳細レビューはこちら)
2.『もりにきたのは』
作/サンドラ・ディークマン、訳/牟禮あゆみ
『もりにきたのは』は、海に流されて森にやってきたシロクマの物語です。シロクマは森の動物たちが初めて見る生き物で、森の動物たちはよそ者であるシロクマを恐れ、避けるようになります。これらは外国人排斥や、難民及び移民に対する差別が連想されます。
また、シロクマが森に流れ着いた理由も、北極の氷が溶けたことが理由で、地球温暖化に伴う気候変動が絵本のテーマにあります。説教臭くならないようさらっと記されています。シンプルでありながら、重要なメッセージを含むストーリーがうまく描かれている作品です。
美しい幻想的なイラストで描かれたこの絵本は、コミュニケーションの重要性と、話しかけるはじめの一人となる勇気の大事さが表現されていて、不慣れな人に対する恐れから始まる差別をなくす出発点となる作品です。
(当サイトでの詳細レビューはこちら)
3.『エリンとまっくろ岩のひみつ』
(評論社)作/ジョー・トッド=スタントン、訳/せなあいこ
『エリンとまっくろ岩のひみつ』は「まっくろ岩」の伝説が残る港町が舞台の、怪物との友情を主題にした冒険物語です。「まっくろ岩」に興味を持った主人公の女の子、エリンはママの漁船に忍び込みます。読んでいてとてもワクワクとする魅力があります。
ストーリーは海洋生物を保護することの大切さを伝えているものです。エリンが「まっくろ岩」を見ると、腰にいかりが刺さっていたり、網が絡まっていたりします。人工物の悪影響が見て取れるこの描写は、自然破壊に対するアンチテーゼでしょう。
また、多くの絵本では、性の固定観念に囚われて、こういったキャラは男性、こういったキャラは女性と決められているように描かれており、またそれらを強調することでキャラクターを際立たせることがあります。
しかしこの絵本で描かれているエリンの母は、男性優位な職業と思われがちな漁師をしています。おそらくシングルマザーでもあり、それらのことを特別なものとせず、あえて言及することもなく、当たり前のように描いているのもこの作品の魅力の一つです。
(当サイトでの詳細レビューはこちら)
4.『にんぎょのルーシー』
(トゥーヴァージンズ)文、絵/SOOSH、訳/高橋久美子
『にんぎょのルーシー』は、人間の女の子エマと、海に住んでいる人魚のルーシーの物語です。人魚と人、住む場所も見た目も違うふたりが、友達となり仲良く過ごす友情の絵本です。
ふたりはそれぞれの違いを認識しながら、一緒に泳いだり、自転車に乗ったり、お茶会をしたりします。
特に素敵なシーンは、二人が釣り人の集まる海に潜り、こっそりと釣り糸に靴を引っかける箇所です。ふたりのいたずらに読者も参加しているような心地で読めます。
平和なシーンが続きますが、ある日曜日の夜、大きな嵐がやってきて、ゴミというゴミが海をおおいつくします。翌朝、見つけた人魚のルーシーの体には、網が絡みついていました。地球環境の問題点もテーマに、人魚と人間、それぞれの立場による違いと、重なり合う部分を描いています。
(当サイトでの詳細レビューはこちら)
5.『ちいさなフェミニスト宣言』
(現代書館)文/デルフィーヌ・ボーヴォワ、絵/クレール・カンテ、訳/新行内美和
『ちいさなフェミニスト宣言』は、女の子らしさ、男の子らしさをこえて、だれもが自分らしく生きられる社会の実現を目指す、フェミニズム、ジェンダー平等をテーマに描いた絵本です。
学校や幼稚園、保育園、また絵本やアニメで知らず知らずに植え付けられてしまった価値観からの解放を、明るく楽しく描いています。
描かれている子どもたちは、いわゆる絵本っぽい場面、例えばドラゴンの出てくる世界や、杖をもった魔法使い、コウモリの飛ぶ古城から、自由で開放的にそれぞれの気持ちを主張します。読者は古い価値観から登場人物たちのように、明るく楽しく自由になりたいと願うはずだし、その行動、言動を模倣したくなるはずです。
(当サイトでの詳細レビューはこちら)
6.『せんそうがやってきた日』
(すずき出版)作/ニコラ・デイビス、絵/レベッカ・コッブ、訳/長友恵子
『せんそうがやってきた日』は、戦争で難民となった子どもたちの現実を描き、絵本を通しその現状を広く伝える目的をもった価値ある絵本です。少女の身に降りかかった戦争の悲惨さ、残酷さがまざまざと書かれています。
安全な国に住む読者に、過酷な状況に追い込まれた子が多くいること、支援が必要なことを呼びかけています。
直接的には死を描かずに、読者にトラウマを与えないようにしながら、戦争の悲惨さを表現しています。
(当サイトでの詳細レビューはこちら)
7.『ふしぎな月』
文/富安陽子、絵/吉田尚令
『ふしぎな月』は、あらゆる場所を明るく照らす、ふしぎな月を描いた絵本です。生命力をもたらす「ふしぎな月」が世界中を照らし、虫たちを妖精に変え、野原に花を咲かせます。
戦場に生きる子どもたちにも希望をもたらしますが、どことなく悲しさを兼ね備える絵本です。社会的な視点もあり、「ふしぎな月」から平和と平等の必要性を訴えかけているようです。
(当サイトでの詳細レビューはこちら)
8.『やさしくてあたたかい』
(化学同人)作/リッカルド・フランカヴィーリャ、訳/やまさきみづは
『やさしくてあたたかい』は、生まれた時は、小さかったけど、それからどんどん大きくなり、そしてびっくりするほど大きくなった、“おおきなこの子”の物語です。
体の特徴を理由に多くの人に疎まれる様子が描かれています。街を追い出され(逃れ)、受け入れてくれる街に引っ越し、働きながら暮らす“おおきなこの子”の姿は、難民及び移民が連想されます。
難民とは戦争や差別、宗教や貧困などといった事情で、国を離れなければならなくなった人たちのことです。難民の人たちには当然人権があり、差別からの保護と働く権利が与えられます。この物語は差別から逃れ、権利が与えられる様子が、いい意味で非常にあっさりと、強い主張にせず伝えています。
誰だって活躍できる場所があり、いじめられたり孤独を感じることがあったとしても、個性を活かす場所があることを教えてくれる絵本です。読者に『やさしくてあたたかい』居場所がきっと見つかると伝えています。
(当サイトでの詳細レビューはこちら)
9.『うつモンスターがやってきた!』
(ラグーナ出版)作/エルドムート・フォン・モッシュ、訳/みやざきなおみ
『うつモンスターがやってきた!』は、子どもの目線から、うつ病になった母親の回復の過程を描いた絵本です。鬱病の人を安易に励ましたりせず、強い言葉ではなく、ありのままを受け入れながら、優しく寄り添う姿が描かれています。子どもにとっては分かりづらいであろううつ病を、モンスターに例えて、病魔には子どもの責任が無い事を説明しています。
精神論的な励ましはなく、家族が静かに見守る描写がとても素敵です。また病院に行き薬をもらうことで回復していく様子も、専門家に聞くことの大切さを表現しています。
(当サイトでの詳細レビューはこちら)
10.『わたしお姫さまになれたよ』
(三恵社)作/丑野公輔、絵/榊原ますみ、監修/岡田新吾
『わたしお姫さまになれたよ』は、生まれた時から目が見えない女の子、ちぃちゃんが、はじめて美容室へ行く物語です。
目が見えない子どもの想像力と夢の実現を、美容室での髪のセットを用いて描いた作品です。
障害の苦労を利用して感動させようとする物語やテレビ番組はときおり見かけますが、この作品はそんな類いのものではなく、主人公の、目の見えないちぃちゃんは、いつも笑顔で想像力を働かせ日常を楽しんでいます。また、障害を軽んじている表現もなく健常者との違いも丁寧に描いている作品です。
(当サイトでの詳細レビューはこちら)