うつ病になった母の回復の過程を描いた物語『うつモンスターがやってきた!』

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【データ】
・作品名: うつモンスターがやってきた!
・作者: 作/エルドムート・フォン・モッシュ、訳/みやざきなおみ
・出版社: ラグーナ出版
・発売年月: 2021年4月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 33ページ
・サイズ: 縦23cm × 横23cm
・絵と文の比率: おおよそ 7:3 1ページ当たりの文字数は200字ほど
・対象年齢: 小学校2年~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: あり
・ルビの有無: 総ルビ
・分かち書きの有無: あり
・縦書き、横書き: 横書き

【作者】
この作品『うつモンスターがやってきた!』は、作者であるエルドムート・フォン・モッシュの体験に基づいている。
訳者のみやざきなおみは、ウィーンにて日本語教育に携わっている。

【内容紹介】
少女リケは、いつもと様子の違う母をみて、自分のことを怒っているのか不安になる。母からうつ病であることを告げられ、リケはそれをモンスターに例える。母はリケと対話を重ねながら通院し、うつ病から少しずつ回復していく。

【レビュー】
〈作品の主題〉
子どもの目線から、うつ病になった母親の回復の過程を描いた絵本。鬱病の人を安易に励ましたりせず、強い言葉ではなく、ありのままを受け入れながら、
優しく寄り添う姿が描かれている。子どもにとっては分かりづらいであろううつ病を、モンスターに例えて、病魔には子どもの責任が無い事を説明している。

〈ストーリー〉
子どもにとって身の回りに起きることは、全て自分の影響が含まれていると考えてしまうことが多いようだ。特に母親が突然精神的に苦しんでるとなると、自分に責任があるのでは、と考えてしまう。この絵本では、うつ病は子には責任が一切無く、モンスターのせいであって、母は子のことを常に愛していることを描いている。

精神論的な励ましはなく、家族が静かに見守る描写がとてもよい。また病院に行き薬をもらうことで回復していく様子も、専門家に聞くことの大切さも表現している。

母のうつ病はある程度回復はするものの、完治することはない。これは実際のうつ病もそうで、治るには非常に時間がかかる病気だ。そして再発も多い。軽々しくハッピーエンドにしないことがこの絵本の良いところだ。

〈絵と文〉
絵は手書き風でとても暖かみがある。表情が豊かで感情をうまく表している。うつ病となり髪の毛がボサボサとなった母は、その深刻さがうまく描かれており、読んでて辛くなるほどだ。

文章はとても読みやすく主人公リケの思いがのった優れた訳だと思った。一方、漢字が少なく子供目線の文の絵本にしては、ページによっては字数が多く、対象年齢がぐらついていると感じた。当サイトでは小学校2年生~としたが、もう少し短くしたほうが家族とうつ病と子どもを描いたこの作品が、広く知られただろう。

〈キャラクター〉
登場人物は主人公のリケと、赤ちゃんの弟トミー、そして両親の四人。基本は母と娘が中心の話だ。ある日母がうつ病となるが、リケへの説明は無い。その後、母本人からうつ病であることを告げられるが、本来なら父親がするべきであろう。弟トミーの世話で忙しいと書かれてはいるものの、うつを告げる場に同席はすべきだと思った。

母と娘中心の話とはいえ、父があまりに無力。リケがヤングケアラーになりそうな場面だが、リケに対する配慮が足りない。それなのに心優しい父といった感で描かれているから気になる。

一方で母がうつ病になった理由は作中で明らかになっていない。序盤に“パパは仕事が多くあまり家にいない”と触れられているが、この父親が原因でうつ病になったと解釈するならば、大人の読者にはそれとなく病気になった理由と父親がすべきことが分かるものの、子どもの読者にはさとられない巧みな表現とも言える。

〈製本と出版〉
文字は小さめ。もう少し大きいほうが読みやすい。余白があるページも多い。上記したように字数が多すぎると感じるページもある。つまりページごとの字数の違いが多くアンバランスな印象。基本的に絵本は1ページ辺りの字数にあまり差異が無いほうが好ましい。

【評点】


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