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【データ】
・作品名: わたしたちの森
・作者: 作/ジアナ・マリノ、訳/小手鞠るい
・出版社: ポプラ社
・発売年月: 2021年10月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 37ページ
・サイズ: 縦26cm × 横26cm
・絵と文の比率: おおよそ 9:1 1ページ当たりの文字数は40字ほど
・対象年齢: 小学校2年~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: あり
・ルビの有無: 総ルビ
・分かち書きの有無: なし
・縦書き、横書き: 横書き
【作者】
ジアナ・マリノはサンフランシスコ生まれの絵本作家。他に、『ぶきみなよるのけものたち』がある。
小手鞠るいは岡山県生まれの小説家、詩人、エッセイスト。他に、『庭』『文豪中学生日記』など多数。
【内容紹介】
夏の光をあつめてかがやく木の葉たち。そよ風にゆれている、ゆたかな草のしげみ。小鳥たちの歌声、仲間たちの足音。平穏に見える森だったが、ある日、音もなくあがった火の手は、風によって大きな炎となって、動物たちにおそいかかる。飛びちる火の粉、熱くやけこげた燃えかすをよけながら、動物たちは必死で走る。こわいものなどなにもなかったはずのピューマでさえ、炎を前にし恐れおののく。
【レビュー】
〈作品の主題〉
世界中で発生している大規模な山火事を、鹿の語りで描いた絵本。動物たちの恐怖をもって、人々が森とどう付き合っていくか、山火事による被害と森と動物たちの再生を描いている。
〈ストーリー〉
山火事というのは人間だけに原因があるものではなく、雷などの理由で自然発生もする。この作品におけるきっかけも、枝の先で火花が散ったことにある。
実際、山火事は森が維持されるために欠かせないものであって、山火事があることで生まれてくる生命体もいる。定期的な山火事は森にとって必要不可欠なことだ。それらが森に住む動物たちにとっての「わたしたちの森」である。
しかし、大規模な森林火災の主な要因に、地球温暖化による気候変動がある。また、発生の原因にタバコの火の不始末などの人為的な理由もある。普段から小さな火が発生しても、すぐに消防が消してしまうために、森に低い草木が密集し、大規模な森林火災を防げない森にしてしまっているのもまた、人の介入が理由だ。
山火事による動物たちの苦しみ、悲しみを描きながら、新たな生命の芽吹きへ展開し、森の再生へと至るストーリーは、説明的にならずに「人と森」の関係について考えさせるものだ。
〈絵と文〉
絵は動物たちが火を恐れ、必死に逃げる様子がありありと描かれており、迫力がある。一方、再生した森で軽やかに飛び跳ねる鹿の絵は素敵だ。
炎や煙を、“さけんでいる炎”や“ほえている風”、“きばをむいて、わたしたちに、おそいかかってくる”、といった具合に、まるで生きた動物の様に描いた文は、語り手の鹿の心情を表しているようだ。見慣れない光景を身近な動物でしか例えられない様子に、読んでいて切ない気持ちになる。
〈キャラクター〉
“わたし”の語りで物語は進むが、タイトルにもある『わたしたち』という言葉が作中でも繰り返し表現される。この言葉に、人間が森へ踏み込むことを恐れる気持ちや、その進入や伐採などが大きな山火事を生み、取り返しのつかない事態を招きかねないという危惧が表れているように感じる。
この物語は、『わたしたち』という巧みな表現を持って、人間を一度も描かずに地球環境を破壊し続ける“私たち”を非難している。
〈製本と出版〉
文字の大きさはふつう。黒または白の字で書かれている。
トラウマを与えるほどではないだろうが、火事から逃げる動物たちの恐怖と苦しみが克明に描かれているため、対象としている年齢は高いだろう。使われている漢字や表現からも、ある程度の年齢の読者を想定しているように感じる。当サイトでは、小学2年生~とした。
【評点】
【関連する絵本、コラム】
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