格差のある世界に平和と平等の必要性を訴える作品『ふしぎな月』

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【データ】
・作品名: ふしぎな月
・作者: 文/富安陽子、絵/吉田尚令
・出版社: 理論社
・発売年月: 2021年8月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 32ページ
・サイズ: 縦25.5cm x 横21.5cm
・絵と文の比率: おおよそ 9:1 1ページ当たりの文字数は30字ほど
・対象年齢: 小学校1年~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: あり
・ルビの有無: 総ルビ
・分かち書きの有無: あり
・縦書き、横書き: 横書き

【作者】
富安陽子は東京都生まれの児童文学作家。他に、『オニのサラリーマン じごく・ごくらく運動会』、『さくらの谷』などがある。
吉田尚令は大阪府生まれの絵本作家。『ふゆのはなさいた』や『しかくいまち』などで知られる。

【内容紹介】
そらにまあるいふしぎな月がのぼると、虫たちは妖精となり、野原は一斉に花を咲かせ、海と空がつながり、魚たちは夜空を泳ぎ回る……。
あらゆる場所を明るく照らす、ふしぎな月を描いた絵本。 

【レビュー】
〈作品の主題〉
生命力をもたらす「ふしぎな月」が世界中を照らし、虫たちを妖精に変え、野原に花を咲かせる。戦場に生きる子どもたちにも希望をもたらすが、どことなく悲しさを兼ね備える絵本。社会的な視点もあり、「ふしぎな月」から平和と平等の必要性を訴えかける。

〈ストーリー〉
序盤は「ふしぎな月」がもたらす力強い効果が印象的に描かれる。
明るい月の力の魅力に引き込まれる一方で、どことなくこの月は死や輪廻転生を暗喩している様に感じられる、そんな暗さも併せ持つ作品だ。しかし、ラストは一種の希望が夜明けとともに描かれる。暗い世界に平和と平等、そして自由をもたらす存在として「ふしぎな月」が表現されている。

夢物語でもあり、この「ふしぎな月」に代わる存在が、格差のある現実の世界に必要であることが示されている。

〈絵と文〉
絵の迫力が表現されている見開きの使い方がうまい。
月を中心に弧を描くように配置された木々や家、子どもたちが、月の存在感を際立たせている。月を取り巻くうねりに吸い込まれていくような魅力的な絵だ。ゴッホの代表作『星月夜』に似ている。

幻想的な文と絵の調和がいい。また終盤、詩に移り変わっていく文は自然で違和感なく読める。

〈キャラクター〉
登場人物の表情は豊か。子どもたちは「ふしぎな月」を驚いて眺めたり、妖精と親しげに触れ合ったり、その圧倒的な存在に心を踊らせている様子が巧みに描かれている。
セリフがない絵本だが、描かれている子どもたちはみな今にも動き始めそうな魅力がある。

〈製本と出版〉
字の大きさはふつう。背景の絵の上に黒または白の字を載せているページがあるが、特に読みづらいと感じる箇所はない。

【評点】


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