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【データ】
・作品名: きょうはだめでもあしたはきっと
・作者: 作/ルチア・スクデーリ、訳/なかむらりり
・出版社: 春陽堂書店 山烋
・発売年月: 2021年9月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 26ページ
・サイズ: 縦31cm × 横22cm
・絵と文の比率: おおよそ 7:3 1ページ当たりの文字数は300字ほど
・対象年齢: 小学校1年~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: なし
・ルビの有無: ー
・分かち書きの有無: あり
・縦書き、横書き: 横書き
【作者】
ルチア・スクデーリはイタリア在住の絵本作家、イラストレーター。他に『森のあかちゃん』などで知られる。
なかむらりりはつくば市出身の翻訳者。
【内容紹介】
ダチョウが砂漠にやってきた。イグアナや、サバクネズミ、アルマジロ、コガネムシたちは、鳥なのに飛ばないダチョウを見て、「へんてこだね」「あれでもとりなの?」と陰口を言う。それを聞いて、自分は空を飛べると嘘をついてしまったダチョウは、毎晩、みんなが寝た後空を飛ぶ練習をする。
【レビュー】
〈作品の主題〉
砂漠に迷い込んでしまったダチョウの物語。飛べない鳥であるダチョウが、動物たちに空を飛べると嘘をついてしまうが、本当は飛べないと打ち明けることで、周囲に受け入れられるまでを描いた作品。正直に自分の弱さを認めることの大切さが描かれている。
〈ストーリー〉
本来の自分とは違う自分を見せたいと思い、強がったり、見栄を張ることを経験した人は多いかもしれないが、素直に公表することでほかの動物たちにダチョウが受け入れられる様子は、ありのままでいることの美しさと素晴らしさが表わされている。
見慣れない他者がのけ者にされ、受け入れられるまでの過程を描いた、よく見る展開の絵本ではあるが、飛べない鳥であるダチョウという半端ともいえる存在が、物語にうまく取り入れられている。ダチョウを笑いものにするイグアナもまた、トカゲとワニの中間のような生き物であり、だれもが画一的な存在ではなく、複雑で多様であると短い絵本ながらうまく伝えている。
ありがちで退屈な感動系絵本を連想させる『きょうはだめでもあしたはきっと』というタイトルだが、実際の趣きは異なる。
作中にある、“きょうは だめでも あしたは きっと。あしたに なったら また これだ”というタイトルの由来となる言葉は、いつまでたっても空を飛ぼうとしないダチョウをからかうコガネムシのセリフだ。その後ダチョウは、空を飛べない事実を打ち明けることで周囲に受け入れられるため、タイトルの『きょうはだめでもあしたはきっと』(できるはず)という何事もあきらめずに挑戦し続ければうまくいくといった、理想的で押しつけがましい印象が、別にできなくていいんだよ、と、そっと寄り添う展開で、嘘をつき続けずに、“明日はきっと”真実を打ち明けよう、という意味にも解釈できる巧みなタイトルに感じた。
〈絵と文〉
絵はシンプルだが、動物の特徴をとらえたものだ。また、背景や地面の色もダチョウの感情が反映された色合いになっていて、うまく工夫されていると感じる。
文は、小説寄りの導入の表現で、主役を表す言葉は、“風変わりな動物”という表現で始まり、ダチョウへと移り変わっていく。相手役も“トカゲとワニをまぜこぜにした生き物”と称されてから、イグアナへとシフトする。読者は正体不明の生き物同士の遭遇に、自分もかち合ったような心地で楽しく読める。
また、話者が混在して分かりづらくならないよう、イグアナのセリフは女性的な役割語を用いて表現されている。ダチョウとイグアナの会話がスムーズに読めるように工夫している。
ただ、漢字なしの分かち書きが行われている絵本にしては、ページによっては文章量が多く表現も割と難しいため、未就学児は読書に慣れていないと少し苦労するかもしれない。漢字を用いたほうがこの絵本には合っている気がする。なお、当サイトでの対象年齢は小学校1年~とした。
〈キャラクター〉
ダチョウに対して陰口を言ったり、からかったりする他のイグアナや、サバクネズミ、アルマジロ、コガネムシの様子は、見ていてあまり気持ちの良いものではないが、ダチョウを鳥と疑い、避ける理由は、鳥が捕食者であり、他の動物たちは捕食される側という圧倒的な立場の差が背景にあると示唆されている。
いじめの問題を彷彿とさせながら、そこには権力勾配と実際に置かれている環境による差が描かれているため、ある種、陰口やからかいも納得できる。
〈製本と出版〉
本のサイズは大きめ。文字の大きさは小さめ。ダチョウの繊細な気持ちを表す文のみ文字色が赤で書かれていて印象的。背景の絵と重なり読みづらい箇所が一部ある。
【評点】
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