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【データ】
・作品名: エリンとまっくろ岩のひみつ
・作者: 作/ジョー・トッド=スタントン、訳/せなあいこ
・出版社: 評論社
・発売年月: 2021年7月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 33ページ
・サイズ: 縦27.5cm x 横24cm
・絵と文の比率: おおよそ 9:1 1ページ当たりの文字数は50字ほど
・対象年齢: 6歳~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: あり
・ルビの有無: なし
・分かち書きの有無: あり
・縦書き、横書き: 横書き
【作者】
ジョー・トッド=スタントンはイギリスの絵本作家。主な作品に、『いっぴきぐらしのジュリアン』がある。
せなあいこは東京生まれの訳者。他に『このまちのどこかに』『まほうのさんぽみち』など多数。
【内容紹介】
「岩なのに、うごきまわるんじゃ。ふねがこっぱみじんにされちまう!」
「やまのようにおおきくて、ノコギリみたいにするどいの」
港町に伝わる、「まっくろ岩」の伝説。興味を持ったエリンはママの漁船に忍び込む。ところが、突然姿をあらわした「まっくろ岩」をよけようと急旋回した船からエリンは振り落とされてしまう。どんどん海底に沈んでいくエリンを助けてくれたのは、怪物だと聞いていた「まっくろ岩」だった。
【レビュー】
〈作品の主題〉
子どもの強い好奇心と冒険、怪物との和解を主題にした物語だ。月並みな展開に見えて社会的な視点も含まれる。エリンは、母親を欺き船に乗る。この描写は読者に悪影響を及ぼさない程度に、ちょっとした背徳の痛快さを感じさせるのがいい。読者の好奇心を引き出し、困難に打ち勝つ展開がこの作品の魅力だ。
一見ありがちな、冒険、怪物との友情を主題にした物語に、強く主張すること無く環境とジェンダーのメッセージを巧みに盛り込んでいる作品。
〈ストーリー〉
ストーリーは海洋生物を保護することの大切さを伝えているものだ。エリンが「まっくろ岩」を見ると、腰にいかりが刺さっていたり、網が絡まっていたりする。人工物の悪影響が見て取れるこの描写は、自然破壊に対するアンチテーゼだろう。
その後エリンから「まっくろ岩」の話を聞いた大人たちは、「まっくろ岩」を壊そうと目論むが、最終的に「まっくろ岩」の頭に灯台を建てるという平和的な解決に至る。漁師という存在が、種を絶滅させることもできるし、種と共存する方向に舵を取る事もできると示している。
また、「まっくろ岩」は、エリンたち、港町に住むものにとっては部外者で、この関係は当然ながら、人種や国籍、性別におけるマイノリティに置き換えて読める。彼らにどのような対応をするかについて、読者に強い影響を与えるだろう。
〈絵と文〉
平穏な島の暖かみのある絵と、海の冷たくて怖さのある絵の対比が、冒険のワクワクとした感覚とそれに伴う危険性が伝わってとてもよい。
会話がほとんどない絵本のため、読者と物語に距離感がある文章に感じる。エリンを語り手にしないまでも、もう少し主観に物語を展開したほうが没入感が出ていい作品になったと思う。
〈キャラクター〉
多くの絵本では、性の固定観念に囚われて、こういったキャラは男性、こういったキャラは女性と決められているように描かれている。また、それらを強調することでキャラクターを際立たせることが多い。
しかしこの絵本の主人公エリンの母は、男性優位な職業と思われがちな漁師をしている。おそらくシングルマザーでもあるが、それらのことを特別なものとせず、あえて言及することもなく、当たり前のように描いている。このような自然な描写は、有害な古い考え方から抜け出すのを助けるものだ。
〈製本と出版〉
基本的に小学校1年生以下の読者を想定して行われる、分かち書きがなされている絵本だが、小学校2年生で習う「岩」のみで漢字が用いられている。加えてルビがない。なぜこのような選択をしたのか甚だ疑問。タイトルで「岩」の字を用いたから不必要と考えたのか、「まっくろ岩」を「まっくろいわ」と表記すると読みづらいと考えたのか、「岩」のみを漢字で表記することで不気味な存在である「まっくろ岩」を際立たせようと考えたのか……。基準が曖昧で残念に思う。なお、当サイトでの対象年齢は総合的判断して6歳~とした。
【評点】
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