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【データ】
・作品名: おつきさまのスープ
・作者: 作/野中柊、絵/木原未沙紀
・出版社: くもん出版
・発売年月: 2021年12月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 30ページ
・サイズ: 縦26.5cm × 横22cm
・絵と文の比率: おおよそ 9:1 1ページ当たりの文字数は30字ほど
・対象年齢: 5歳~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: なし
・ルビの有無: ー
・分かち書きの有無: あり
・縦書き、横書き: 横書き
【作者】
野中柊は新潟県生まれの作家。主な作品に、『紙ひこうき、きみへ』『こねこのビスケット』など多数。
木原未沙紀は1986年生まれのイラストレーター。装画に『蜂の物語』『木になった亜沙』がある。
【内容紹介】
くろねこのクロロのお誕生日に、友だちの様々な生き物が集まり、賑やかにお祝いする。クロロはたまに、すがたが見えなくなる不思議なねこ。今日もパーティーの途中、すうっと消えてしまう。 友だちみんなで、クロロを探す。
【レビュー】
〈作品の主題〉
くろねこのクロロの誕生日パーティーから始まる物語。幻想的で美しい絵と文がうまく調和し、不思議で魅力的な世界が構築されている。この非現実的な物語に浸ることで一種の逃避に近い心地よさが味わえる。
〈ストーリー〉
クロロの誕生日を多くの生き物たちが祝う始まりのシーンは、とても華やかで明るい。様々な種類の生き物が表情豊かに祝福している様子は、読んでいて幸せな心地になる。
その後クロロはケーキに刺さったろうそくを吹き消すが、それと同時にクロロも消えてしまい、闇の中動物たちがクロロを探すシーンが続く。屋根裏のシーンでは毛むくじゃらのクモやコウモリ、リアルなムカデも登場するが、不思議と不気味な印象もなく読める。前半から続く楽しげな雰囲気が継続されているのと、この物語の当初から、活気に満ちた生物たちの持つ力が表現されているからだろう。
また、作品を通し目が印象的に描かれている。どの生き物たちも目に映る反射はとても美しい。目を閉じ、ろうそくを吹き消すと姿が消えるクロロは、闇の象徴のようで、その後、暗闇に冴える満月がクロロの目に宿ることで、クロロは消えない身体へ成長する。「陰と陽」が対比されているようで、それらが終盤に向かい自然に中和していくさまに心惹かれる。
〈絵と文〉
幻想的で美しい絵が非常に魅力的。多くの生き物が登場するが、そのどれもが絵本の主役として作品になれるほど丁寧に描かれている。衣装や食べ物、小物も細緻に描かれていてページを捲るたび惚れ惚れする。
文は読みやすく、絵とともに幻想的で、楽しい雰囲気が伝わる。ただ一点、クロロを祝福する際に「うまれてきてくれてありがとう」という文が書かれている。割によく聞くセリフだが、この表現は好きになれない。なぜなら生まれてくることを選択できる子などいないからだ。
〈キャラクター〉
黒猫のクロロのみ固有の名前があり、他の動物はカンガルー、あらいぐまなどと動物の名で書かれている。多くの動物が登場する絵本でそれぞれに名前があると雑多で分かりづらくなるだろうし、主役の猫に名前がないのも物語が遠く感じてしまうから、この描き方がベストだろう。
終盤キーとなる存在のことりは、クロロが闇に消えないようにするための、“お月さまのスープ”作りを指南するが、楽しげに歌う様子もあって、神の使いのようでもあり、友達のようでもある。親しみがもてる良いキャラクターだと思う。
〈製本と出版〉
文字の大きさは少し小さめ。絵の上に黒または白の字で書かれている。一部背景の絵と重なり読みづらい箇所がある。
一際幻想的な小鳥のセリフ(歌)のみが明朝体で書かれている。
漢字なしで分かち書きがなされた絵本。ラストシーンは少し難解だが多様な解釈ができるし、幻想的な雰囲気もあり、不思議な心地で読めるため読書に慣れていない子でも楽しめると思う。当サイトでの対象年齢は小学校1年~とした。
【評点】
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