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【データ】
・作品名: 『さわってもいい?』
・作者: 作/はまのゆか、監修/佐々木 裕子
・出版社: めくるむ
・発売年月: 2023年1月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 32ページ
・サイズ: 縦24.5cm × 横21.5cm
・絵と文の比率: おおよそ 9:1 1ページ当たりの文字数は30字ほど
・対象年齢: 6歳~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: なし
・ルビの有無: ―
・分かち書きの有無: あり
・縦書き、横書き: 横書き
【作者】
はまのゆかは、大阪府出身のイラストレーター。他に、『きょうなにしてた?』『13歳のハローワーク』など多数。
佐々木 裕子は杏林大学保健学部教授。他に『すくすくいのち』がある。
【内容紹介】
いとこのえっちゃんとゆうちゃんと遊んでいた、たっくん。でも、えっちゃんがほっぺを指でつんつんしてきたり、引っ張ったりするから、ちょっと嫌な気持ちになっていた。でも、そのことをうまく言えない。するとゆうちゃんが「いやだったら、いやっていっていいんだよ」と教えてくれる。
【レビュー】
〈ストーリー〉
他者の体に触れるには、必ず了承が必要であることを伝える絵本。合意をテーマに描いていて、様々な描写の工夫がある。
物語は、たっくんがえっちゃんから嫌な目にあっているとき、ゆうちゃんの助言をきっかけに、たっくんは自分の意思を伝え、二人は少しずつ和解する流れとなっている。
被害にあったときに声を上げる(たっくん)ことの重要性、他者の被害に気づき声をかけることと手を差し伸べる(ゆうちゃん)ことの大切さ、そして無意識な加害(えっちゃん)への警鐘が描かれている。
異なる立場の三者を描いて、シンプルな絵本ながら巧みに、体の接触には合意が必要であるという大切なメッセージを伝えている。
性教育的な絵本はどうしても物語の魅力が薄れる場合が多い(大切な内容を丁寧に描く必要性があるため仕方ないとは思う)けど、この絵本は多くの人にとって身近な親戚との交流を舞台にして、豪快なイラストの比喩を用いながら、絵本としての豊かな魅力も持ち合わせている。
〈絵と文〉
絵は親しみやすく、登場人物の表情も豊かで、舞台はずっと家の中だけど比喩的に外に出たり空を飛んだりする描写もあり、楽しんで読める。
嫌な思いをしたとき、たっくんから見て、えっちゃんがとても大きく見えるイラストは、読んでて実際に怖くなるような迫力がある(読者にトラウマを与えるほどのものではないです)し、些細と思える行動であっても、親しいと思ってる間柄に対してでも、無自覚に恐怖を与えてしまう可能性が提示されている。
たっくんは男の子、いとこのゆうちゃんとえっちゃんは女の子のようだが、性別は明確には描かれていないし、たっくんが赤い服を着て、ゆうちゃんとえっちゃんが青い衣装を身に着けていたりと、ジェンダーステレオタイプを意図的に崩すような描き方が、よく感じた。
そして、序盤のゆうちゃんとたっくんが合意の上で接触するシーンと、終盤のえっちゃんがたっくんを傷つけたことを知り謝るシーンでは、二人の間に赤と青とは異なるピンクのイラストが配置されており、調和された関係が示されている。大切な表現が自然な描き方で伝わるし、絵を読み解く魅力もある素敵な絵本となっている。
また、被害にあう子がたっくんで、加害をしてしまう子がえっちゃんであることも、性的な意思の不一致に様々なバリエーションがあることを伝えているようだ。
〈キャラクター〉
「いとこ」同士という近くも遠い存在がうまく使われている。小さい子にとってはほとんど会ったこともない知らない人たちで、成長した子にとっては家族同然のような関係性の場合が多い。この絵本での関係性もまた、序盤の挨拶のシーンから非対称性が読み取れる。
その微妙な距離感が体の接触と合意の必要性を表す大切なシーンにつながり、物語に奥行きを与えている。
〈製本と出版〉
表紙を開いてすぐのページに、低年齢の読者向けのプライベートゾーンの解説が書かれている。非常に丁寧で大切な文言ではあるが、文章量が多く、ターゲットにしてるだろう未就学児童には、ちょっと読むのは大変だと思う。表紙を開いていきなりこの文面を目の当たりにするとちょっと読む気を無くしちゃうんではないかなと感じた。
絵本の魅力は、絵とともに難しい内容であっても浸透するように学べることにもあると思うので(その点で本編はとても素晴らしい内容に感じました)、出版上32ページの制約はあるけど、解説は本の終わりに回しても良かった気がする。
【評点】
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