第一次世界大戦中に起きたクリスマス休戦の奇跡『戦争をやめた人たち』

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【データ】
・作品名: 戦争をやめた人たち 1914年のクリスマス休戦
・作者: 文、絵/鈴木まもる
・出版社: あすなろ書房
・発売年月: 2022年5月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 29ページ
・サイズ: 縦22.5cm × 横28cm
・絵と文の比率: おおよそ 8:2 1ページ当たりの文字数は50字ほど
・対象年齢: 小学校3年~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: あり
・ルビの有無: 総ルビ
・分かち書きの有無: なし
・縦書き、横書き: 横書き

【作者】
鈴木まもるは東京都生まれの絵本作家、画家。他に、『せんろはつづくにほんいっしゅう』『としょかんのきょうりゅう』など多数。

【内容紹介】
第一次世界大戦中の12月24日の夜。イギリス軍の兵士はドイツ軍との銃の打ち合いで、疲れはてて、塹壕で休んでいた。するとドイツ軍の塹壕からクリスマスの歌「きよしこのよる」が聞こえてきた。ドイツ軍の兵士が歌っているようだった。「こっちも、歌おうか」とイギリス軍の兵士たちも歌いはじめる。

【レビュー】
〈作品の主題〉
翌日、クリスマスの日の朝、ドイツ軍の兵士とイギリス軍の兵士は、互いに歩み寄り、鉄条網の中央で握手をした。兵士たちは写真を撮ったり、食べ物やお酒を飲んだりして楽しむ。
彼らはその後サッカーをしてクリスマスを祝い楽しんだ。
第一次世界大戦で起きた実話で、人の命と権利を思う想像力があれば、戦争はやめることができると伝える絵本。

〈ストーリー〉
クリスマス休戦という第一次世界大戦のさなか、実際におきた印象的な出来事を描いた絵本。裏表紙の袖にも「ほんとうの話」と書かれている。といっても兵士により語られた様々なエピソードを一つにまとめ、脚色したものと思われる。

同じクリスマス休戦を元にした絵本で、2005年に評論社から出版され評価も高い、『世界で一番の贈りもの』(作/マイケル・モーパーゴ、画/マイケル・フォアマン、訳/佐藤見果夢)がある。
比べて読むと『戦争をやめた人たち』は、上記の絵本とイラストなど似ている部分が多く、強い影響を受けているように感じた。
『戦争をやめた人たち』(2022)
『世界で一番の贈りもの』(2005)
『戦争をやめた人たち』(2022)
『世界で一番の贈りもの』(2005)
『戦争をやめた人たち』(2022)
『世界で一番の贈りもの』(2005)
また、気になったのは、作中の終わり近くで書かれる以下の文章で、
「クリスマスをいわった兵士たちは、もう、銃でうつことはせず、命令されると、銃をすこし上にむけ、空にむかってうったそうです。大きな作戦があるときは、あいてに知らせ、気をつけるよう、つたえたそうです。」とある。

いくら調べてもこのようななんとも「感動的」なエピソードは見つからなかった。むしろより戦争は激化したため、兵士たちは命令に逆らうことができなくなったとする記述は多い。史実をもとにした作品であるのに、参考文献リスト等がないのは非常に残念。

〈絵と文〉
第一次世界大戦をテーマに描いた物語で、序盤は戦場が舞台の絵本にふさわしく物々しい雰囲気が印象的に描かれている。平和的なエピソードへ移る過程で、暗めの絵からだんだんと明るくなっていく。その後、ドイツ軍の兵士とイギリス軍の兵士が仲良くサッカーをするシーン以降から、少しずつ色づいていく。
戦争の厳しさから平和(それが一時的なものでも)へ繋がることと、兵士たちの心情の変化がイラストで表されている。
モノクロから色がついていく表現はありがちだが、主張しすぎない自然な移り変わりが、心に残る非常に美しい表現に感じた。

文章は序盤に第一次世界大戦や、当時の戦地のありさまなど、大まかな背景が語られている。その後は丁寧な文章で物語が語られるため、読み始めはとっつきにくい印象を持つ読者もいるかもしれない。
ただ展開上、歴史の背景や、塹壕や鉄条網などの舞台となる場所の様子、兵士たちにとってとても厳しい環境であったことが示されることで、物語に深みが増すので、必要な文章だと思う。

〈キャラクター〉
厳しい日々を送る兵士たちの表情や、中央の鉄条網へおそるおそる近づいていく兵士、そして生き生きととても楽しそうにクリスマスを祝い、サッカーをする登場人物たちは、非常に親近感がわく。
同時に兵士たちにも故郷があり生活があると知る。一時的でも戦争を止めた様子から、現代にも通じる平和への道があるように思った。

〈製本と出版〉
本の大きさは小さめ。横長の絵本。表紙の文字は振り仮名なしだが、作中では総振り仮名。基準があいまいに感じる。
背景の絵と文字が重なり読みづらい箇所が多い。文字がつぶれているようにも見える箇所がある。大変読みづらいので縁取りのフォントにするなり背景の色を薄く加工するなりしてほしかった。

【評点】


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