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2022年、上半期に読んだ絵本のベスト10です。
1.『わたしはいいこ?』
(小学館)作/えがしらみちこ
『わたしは いいこ?』は、「いい子」という言葉に疑問を持った語り手の少女が、意味や使い方を探る物語で、子どもの疑問と想像力の可能性が描かれている作品です。
「いい子」であるべきといった大人たちからの押し付けに近い言葉と、自身もそうあるべきだと思う気持ちで、なんだかいい子ってつかれちゃう、と少女は感じます。
「いい子」とされる、聞き分けのいい子とは、大人にとってある種「都合のいい子ども」であって、子の伸び伸びとした自由な成長を制限する言葉になるかもしれません。
この絵本はありのまま子どもの自由な考えや行動を尊重する作品で、丁寧な気持ちの伝え方を考えるきっかけにもなる、保護者や教員など、子に携わる大人にも推奨できる作品です。
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2.『さかなくん』
(偕成社)著/しおたにまみこ
『さかなくん』は、小学生のさかなくんの物語です。さかなくんは、水の外の小学校へ行くときは、ゴムのズボンを履いたり、ガラスのヘルメットをかぶったりと準備をします。それでもさかなくんは学校が好きです。でも、体育は大嫌い。そんなさかなくんは体育で走ってる最中、転んでしまいます。
人と動物が入り交じる、完成された舞台が魅力的で、みんなとは少し違う、さかなくんを通して、友達を思いやる気持ちと、前向きな感情の変化が描かれている作品です。
絵は背景もキャラクターも細緻に魅力的に描かれています。
擬人化した動物が暮らすフィクションの舞台を整える、様々な工夫が丁寧に描かれていて、物語とキャラクターの存在感をより強固にしています。
例えばキツネやシカ、ウマなどの動物は、動かせる指がなく鉛筆を持てないため、鉛筆を固定する特殊な器具を身に着けています。また、ネコも食事の際に腕を嵌められる輪のついた食器を使っています。ネコの持つカバンにもチャックを開けるために手を入れる輪がついています。
他にも保健室の馬の先生は胴長のため、机の高さの底上げをしていたり、ネコは耳が抜けるように穴が開いた帽子を持っていたりします。さかなくんの部屋には、胴体がはまるようにできた中央がくり抜かれた椅子があるし、また、クラスでは尾びれのあるさかなくんだけ丸椅子に座っています。
一つの架空の世界をここまで隅々まで描いている絵本はなかなかなく、絵を眺めるだけでも没入し、世界に浸かるれような魅力があります。
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3.『はるのにわで』
(福音館書店)文/澤口たまみ、絵/米林宏昌
『はるのにわで』は、春の庭を舞台に、「自然」の「自然」な様子を描いた作品です。時の経過が描かれた絵本で、一連の流れの中での生き物の様子が自然に描かれています。それぞれの生き物や草花が、特徴を生かしながら関連し合っていて、「知る」楽しさも描かれています。
生き物の一つ一つの動作が、様々に影響し合って自然を形成していることが伝わる作品です。それらは特別、絵本を楽しくするための「作られた出来事」という印象はなく、知らず知らずのうちに起きている一連の様子をただ切り取っただけのような自然さがあります。
特筆すべき点として、絵の美しさがあります。俯瞰の絵からフォーカスされ、対象の生き物にクローズアップし、細部を描いていく表現、一つの庭を様々に角度を変えて捉え直す絵は非常にうまく、ちょっと感動的にもなるほどです。
躍動感もあって読んでてとてもワクワクする絵で、発見する魅力と観察する楽しさがあります。
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4.『スープとあめだま』
(岩崎書店)作/ブレイディみかこ、絵/中田いくみ
『スープとあめだま』は、雪の降る日、ホームレスを助けるボランティアをするお姉ちゃんに、ついていった“ぼく”を描いた物語です。
お姉ちゃんと“ぼく”は、路上で毛布にくるまるホームレスの人たちを、教会のシェルターへ案内します。シェルターの中には大勢の食事を待つ人たちがいました。
ホームレスへの偏見を無くし、社会的弱者の支援や立場の違い、格差を考えるきっかけとなる絵本です。
冬が舞台の作品ですが、温かみのある色合いで描かれています。作品の展開や印象、読後感ととてもよく合っています。
また、描かれているお姉ちゃんのあけすけな言動は、ホームレスに対する偏見のない言い回しで、ホームレスを助けるという行動が、“優しさ”というよりかは、“当然の行動”といった感じで、「奉仕してあげてる」感みたいなのがありません。非常に好感が持てる表現で、そう感じさせない描き方はとても秀逸に感じました。
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5.『わたしのかぞく みんなのかぞく』
(あかね書房)作/サラ・オレアリー、絵/チィン・レン、訳/おおつかのりこ
『わたしのかぞく みんなのかぞく』は、学校で先生が「じぶんの かぞくの、とっておきの はなしを、みんなにきかせてね」と言ったのを聞いた、“わたし”が、自分の家族はほかのみんなと違うからと、何を話せばいいか困ってしまうところから始まる物語です。
ほかの子どもたちは先生に促され、自分の家族のことをクラスメイトに話し始めます。
養子の多い家族や、離婚した両親とで交互に過ごす子、人種の違う家族、連れ子同士の家族、同性カップルの子など、様々な子どもたちが幸せそうに過ごしている素敵な様子を語ります。
それぞれの家族の話を、子ども自身が子どもの目線でみんなに親しげに話す様子は、とても幸せそうで、また温かさと力強さがあります。読んでて勇気づけられる読者も多いと思います。
マイノリティだけでなく、幼馴染でずっと仲良しな親だとか、音痴だけど歌うのが好きな親だとか、偏見の対象とならないような家族も混ざっているのも優れた表現に感じました。
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6.『ことばコレクター』
(ほるぷ出版)作/ピーター・レイノルズ、訳/なかがわちひろ(中川千尋)
『ことばコレクター』は、石でもカードでもなく、「ことば」を集めるのが好きなジェロームの物語です。ジェロームは、響きがきれいだったり、声に出して読むと楽しくなる言葉、小鳥が歌っているような様々な言葉を、夢中に集めていきます。
ジェロームが、「ことば」をたくさん集めてスクラップしていたら、ある日、転んで全部ぐちゃぐちゃになってしまいます。
「あれ? でも、これ、あんがいおもしろいかも……」そう思ったジェロームは、誰も聞いたことがない詩を書き、歌をうたい始めます。
語感の楽しさや、伝える気持ちといった言葉の持つ力を描いた絵本です。
主人公の“言葉コレクター”ジェロームは、とても好奇心旺盛で、様々なことに挑戦する楽しい人物で、読んでてワクワクするような魅力があります。
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7.『アフガニスタンのひみつの学校』
(さ・え・ら書房)作/ジャネット・ウィンター、訳/福本友美子
『アフガニスタンのひみつの学校』は、タリバンに支配されたアフガニスタンが舞台の物語です。
学校に行くことを禁止され、両親もいなくなってしまったナスリーンは、一言もしゃべらなくなってしまいます。そんなナスリーンを心配したおばあちゃんは、女の子のための秘密の学校があることを知り、そこへナスリーンを連れていくことにします。
今から20年ほど前のアフガニスタンでの実話で、タリバン政権下の痛ましい性差別と現実が描かれている作品です。学ぶことは人を豊かにし、逆にそれを制限すれば人の自由を奪うことになると伝えています。ショックな出来事があり心を閉ざしてしまった人を勇気づける物語でもあります。
ストーリーは祖母の視点から、心を閉ざし話さなくなった孫娘の少女ナスリーンを語る構成となっています。
タリバン政権下のアフガニスタンの厳しい現実と、祖母の目線で語る等身大の少女の描き方がうまく、物語を理解しやすいのもまたこの絵本の魅力です。
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8.『ごめんねゆきのバス』
(文溪堂)作/むらかみさおり
『ごめんねゆきのバス』は、お姉ちゃんのぬいぐるみにジュースをこぼしてしまったため、お姉ちゃんを怒らせてしまっためぐちゃんの物語です。
めぐちゃんが困っていると足元に小さなドアが現れます。通り抜けてみると、そこには、大きなくまが運転手をしているバスがありました。
めぐちゃんが乗ると、友達の本を返し忘れていたねこの子や、お母さんとの約束をやぶってしまったリスの子たちが乗っていました。バスは、ねこの子が「ごめんね」を言わなければならない相手のところで止まります。
なかなか謝ることができない、ごめんねの一言が言えない人を後押ししてくれる絵本で、温かみとファンタジーな魅力もある作品です。
素直に謝ることの難しさが丁寧に描かれていて、一歩踏み出すことの大切さを教えてくれる絵本です。
絵は、背景にぬいぐるみや人形など小物が多く描かれていて、動物好きな姉妹の普段の様子が伝わるようで、ほほえましく読めます。また、外には小さな動物たちがいたり、バスや家の階段にクマのマークがあったり、バスの座席がクマの足になっていたりと小さな発見が多く、楽しく読める絵本です。
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9.『ピヤキのママ』
(ブロンズ新社)作/ペク・ヒナ、訳/長谷川義史
『ピヤキのママ』は、ふとっちょでくいしんぼうで、よわいものいじめをする、ふだつきのねこ、ニャンイの物語です。
ニャンイは、ある春の朝、生みたてのたまごを食べたところ、だんだんとおなかが膨らんできます。うーうーうーんとふんばると、なんと、でてきたのはひよこでした。ニャンイは戸惑いながらも、生まれたひよこを「ピヤキ」とよび、いっしょに過ごすことにします。
生命の大切さと、「ピヤキのママ」となるニャンイの愛をユーモアたっぷりに描いた心温まる作品で、家族の新しい形を表現している絵本です。
猫とひよこという立場の違う、ふたりの存在を通して、「親子とは何か」を考えさせられるストーリーになっています。
ニャンイの絵は割と醜く描かれていますが、それでも可愛らしさもあり、キャラクターの行動に合った優れた絵だと思います。ちまたにあふれる「可愛い猫絵本」とは一線を画す魅力があります。
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10.『ながみちくんがわからない』
(BL出版)作/数井美治、絵/奥野哉子
『ながみちくんがわからない』は、同じクラスにいる、何を考えているのか、さっぱりわからない、わりきれない男の子、ながみちくんと、“わたし”の物語です。
“わたし”は、ながみちくんを研究しようと、学校の帰り道、ながみちくんのあとを歩くことにします。“わたし”がながみちくんに対して感じる、言葉では言い表せない気持ちが描かれている絵本です。
わたしが、掴みどころがなくあけすけな子に対して感じる、初めての戸惑いと惹かれていく様子が丁寧に描かれています。
また、ながみちくんの行動を見て、様々なことを想う“わたし”の多様な感情や、ながみちくんの不思議さは、紋切り型でない子どもの描写で、その、キャラにならない「人間」的な様子がとても印象に残ります。
“わたし”の心情を表す文は小気味よく書かれていて楽しく読めます。
絵本というよりか児童文学寄りで、小説的な文章に慣れるための一冊目の絵本にも適していると思います。
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