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・作品名: はるのにわで
・作者: 文/澤口たまみ、絵/米林宏昌
・出版社: 福音館書店
・発売年月: 2022年3月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 40ページ
・サイズ: 縦26.5cm × 横22cm
・絵と文の比率: おおよそ 9:1 1ページ当たりの文字数は20字ほど
・対象年齢: 5歳~
・カタカナの有無: なし
・漢字の有無: なし
・ルビの有無: ー
・分かち書きの有無: あり
・縦書き、横書き: 横書き
【作者】
澤口たまみは、岩手県生まれの絵本作家。他に『だんごむしのおうち』『わたしのこねこ』など多数。
米林宏昌は石川県生まれのアニメーター。主な作品に、『生ごみからエネルギーをつくろう!』『思い出のマーニー 徳間アニメ絵本』『借りぐらしのアリエッティ 徳間アニメ絵本』などで知られる。
【内容紹介】
春の庭に、朝がやってきた。おひさまの光が、庭いっぱいに差し込み、香りのよいシャクヤクの花では、アマガエルが眠っている。そこへマルハナバチが飛んできて、花の真ん中に潜り込む。
【レビュー】
〈作品の主題〉
マルハナバチがせわしく動くので、アマガエルは花を出る。アマガエルがヨモギの葉に降りると、コモリグモはさぁっと逃げる……。
時の経過が描かれた絵本で、一連の流れの中での生き物の様子が自然に描かれている。それぞれの生き物や草花が、特徴を生かしながら関連し合っていて、「知る」楽しさも描かれている。春の庭を舞台に、「自然」の「自然」な様子を描いた作品。
〈ストーリー〉
生き物の一つ一つの動作が、様々に影響し合って自然を形成していることが伝わる作品。それらは特別、絵本を楽しくするための「作られた出来事」という印象はなく、知らず知らずのうちに起きている一連の様子をただ切り取っただけのような“自然”さがある。
本を読み終えた後も、描かれている生き物がどのように過ごしていくかを想像できる楽しさがある。また、作品で描かれているのは春の朝の短い時間だが、夏の昼でも秋の夕方でも、自分で出向いて観察したくなるような、行動に繋がるような魅力がある。
庭を大きく描いたシーンにはその後焦点が当たる、カエル、あめんぼ、ハチなどが描かれているが、よく見ると白い玉をお尻につけたこもりぐもも描かれている。他にも多くのページで様々な生き物たちが小さく描かれている。読者が探しながら読み、様々な発見をする楽しさがあるし、繰り返し読める魅力がある。
また、文章で明記されていない生き物もいて、この生き物は何て名前だろうかと興味がわいてくる。
〈絵と文〉
絵は日差しを受けて朝露が反射し、きらめく草花がとても美しく描かれている。また絵も実際の出来事を切り抜いたような現実性があるような描写に感じる。
特徴を捉え描かれた生き物たちは丁寧に生き生きと表現されている。
俯瞰の絵からフォーカスされ、対象の生き物にクローズアップし、細部を描いていく表現、一つの庭を様々に角度を変えて捉え直す絵は非常にうまい。
躍動感もあって読んでてとてもワクワクするし、発見する魅力と観察する楽しさがある。
印象に残った文章で、少年が水の中に足を踏み入れた後を描いたシーンに、
『みずたまりには ゆらゆらと なみが たちました。 あめんぼたちも、なみと いっしょに ゆうらゆうら しています』
とある。『ゆらゆら』と『ゆうらゆうら』。表記の揺れがあるようだが、これは波とアメンボの動きの違いと時間の経過が表された文で、非常に秀逸に感じた。
〈キャラクター〉
キャラクターに着目がされているタイプの作品ではないが、自然だけでなく人(少年)とその飼い犬が描かれているのはとてもいいと感じた。
人もまた自然の一つとして描かれているようで、少年は特別、虫たちに気をつかい“配慮”した行動をとるわけでもなく、かといって悪意を持って意図的に邪魔するでもない関わりが、描かれている一連の様子に説得力が増すというか、物語をより立体的にしている。
また、ちょっと飛躍した解釈かもしれないが、少年は虫かごにダンゴムシを入れている。単に虫好きの男の子というだけでなく、作品のメインで描かれているありのままに生きる虫たちと対比されているようで、読者の写しとなる少年を通し、読者に対して、飼育する楽しさだけでなく、自然を観察する楽しさもあるよ、と教えているような表現で、また作品全体を通して導いているように感じた。
〈製本と出版〉
割にめずらしい、漢字なし、カタカナなしの総ひらがな絵本。生き物や植物の名前は総称ではなく種まで書かれているため、ハイコンテクストな絵本ともいえるが、絵を見ればすぐに何を表しているか分かるように描かれているし、知識を得る楽しさもある。対象年齢は5歳~とした。
文字の大きさは少し小さめ。背景の絵と文章が重なって読みづらい箇所が一部ある。
【評点】
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