ホームレス支援と偏見を無くす少年の成長『スープとあめだま』

 
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【データ】
・作品名: スープとあめだま
・作者: 作/ブレイディみかこ、絵/中田いくみ
・出版社: 岩崎書店
・発売年月: 2022年2月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 32ページ
・サイズ: 縦27.5cm × 横21.5cm
・絵と文の比率: おおよそ 9:1 1ページ当たりの文字数は30字ほど
・対象年齢: 小学校1年~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: なし
・ルビの有無: ー
・分かち書きの有無: あり
・縦書き、横書き: 横書き

【作者】
ブレイディみかこは、イギリス在住のライター、コラムニスト。他に『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー 』『両手にトカレフ』などで知られる。
中田いくみは、埼玉県生まれ。主な作品に、『ママ、どっちがすき?』『あの子のことは、なにも知らない』がある。

【内容紹介】
雪の降る日、ホームレスを助けるボランティアをするお姉ちゃんに、ついていった“ぼく”。路上で毛布にくるまるホームレスの人たちを、教会のシェルターへ案内すると、中には大勢の食事を待つ人たちがいた。ぼくはあたたかいスープを配ることになる。
【レビュー】
〈作品の主題〉
ホームレスのおじさんに温かいスープを配ると、おじさんは“ぼく”にあめだまをわたしてくれた。ぼくはそのあめだまが、命をつなぐあめだまだと悟る。
ホームレスへの偏見を無くし、社会的弱者の支援や立場の違い、格差を考えるきっかけとなる絵本。

〈ストーリー〉
序盤描かれているホームレスの人々は、うつむいていたり、帽子で隠れていたりと「目」が描かれていない。つらい生活を送っているホームレスの状況を表しているとも読めるが、ホームレスと距離を取りたい語り手の“ぼく”の心情が現れた絵とも解釈できる。

その後、ぼくはスープを渡したホームレスのおじさんから飴玉をもらい、初めてホームレスの人と向き合う。“ぼく”があめだまを受け取る一瞬の間が、見開き1ページを使って描かれている。
その時ぼくは、ホームレスが「無関係な他人」ではなく、「思いやるべき隣人」と気づいたようだ。

読者と同じ視点で描かれるぼくが、「スープとあめだま」のやりとりで、ホームレスへの偏見を無くし、人と人とのつながりが命を救うことに気づく。ぼくの体験と変化に、読んでいて力強さを感じた。
〈絵と文〉
冬が舞台の作品だが、温かみのある色合いで描かれている。作品の展開や印象、読後感ととてもよく合っていて好ましく思った。

文章は語り手の“ぼく”の繊細な気持ちを、少ない言葉数でうまく表現している。多くのホームレスの人々が集うシェルターに入った時、ぼくは、〈このにおい……。〉と思い、パンやスープのある厨房へ移動する。

このシーンは、美味しそうな料理の香りを感じて厨房へ向かったわけではなく、ホームレスのにおいを嫌がり避けたわけだが、ぼくの直接言及しない(内心だけど)優しさと、「無関係な他人」を煙たがる感情とが入り交ざっているような巧みな表現に感じた。
〈キャラクター〉
あけすけなお姉ちゃんな言動は、ホームレスに対する偏見のない言い回しで、ホームレスを助けるという行動が、“優しさ”というよりかは、“当然の行動”といった感じで、「奉仕してあげてる」感みたいなのがない。非常に好感が持てるし、そう感じさせない描き方は秀逸に感じた。

〈製本と出版〉
本の大きさは少し大きめ。文字の大きさはふつう。文字が背景の絵と重なる箇所があるが読みづらい部分はない。
“ぼく”の内心を書いた文章がゴシック体で、セリフが明朝体で書かれている。

【評点】


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