愛とユーモアと新しい家族の形。猫の絵本『ピヤキのママ』

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【データ】
・作品名: ピヤキのママ
・作者: 作/ペク・ヒナ、訳/長谷川義史
・出版社: ブロンズ新社
・発売年月: 2022年5月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 35ページ
・サイズ: 縦31cm × 横20.5cm
・絵と文の比率: おおよそ 9:1 1ページ当たりの文字数は30字ほど
・対象年齢: 6歳~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: なし
・ルビの有無: ー
・分かち書きの有無: あり
・縦書き、横書き: 横書き

【作者】
ペク・ヒナは、韓国の絵本作家。主な作品に、『お月さんのシャーベット』『あめだま』がある。
長谷川義史は大阪生まれの絵本作家。他に、『そらからおちてきてん』『おにのパンツ』などで知られる。

【内容紹介】
ふとっちょでくいしんぼうで、よわいものいじめをする、ふだつきのねこ、ニャンイ。生まれたてのまだ温かいたまごがニャンイの大好物のおやつ。ある春の朝、生みたてのたまごを食べたところ、だんだんとおなかが膨らんできたニャンイ。うーうーうーんとふんばると、なんと、でてきたのはひよこだった。
ニャンイは戸惑いながらも、生まれたひよこを「ピヤキ」とよび、いっしょに過ごすことにする。
【レビュー】
〈作品の主題〉
ニャンイはピヤキを育てることを決心する。どこに行くにもピヤキから目を離さず、いつしかニャンイはご近所さんから、「ピヤキのママ」と呼ばれるようになった。
生命の大切さと、「ピヤキのママ」となるニャンイの愛をユーモアたっぷりに描いた心温まる作品で、家族の新しい形を表現している絵本。

〈ストーリー〉
悪名高い者がちょっといいことをすると、なぜだか相対的に「いいやつ」になるといった、ちょっと引っかかる物語は多いが、この絵本も割とそういうところはある。
ただ、猫とひよこという立場の違う、ふたりの存在を通して、「親子とは何か」を考えさせられるストーリーになっている。

ニャンイは口からたまごを丸のみして、おしりからひよこを生む。子を授かる過程として固定観念にとらわれない描かれ方は、クィアな作品とも読める。

鳥類が生後間もないときに目にした動く物体を、親と認識してあとを追うようになる現象(刷り込み)があるが、そのために新しい親子の形が生まれる。
ご近所さんから、「ピヤキのママ」と呼ばれるようになるのは、性を限定しているようにも感じるが、さまざまな親子の形があり、それは血縁関係がなくとも、性の多様さでも、人種の違いがあってもあると表現された物語に思う。
〈絵と文〉
絵は基本的にモノクロ。パートカラーのようにひよこのピヤキが黄色く色づけられ、印象的に描かれている。
ラストシーンにて月も黄色く描かれているが、その光に反射するようにニャンイとピヤキが薄く色付けられている。白黒のニャンイに色が付くのは作中でこのページのみで、親子の関係性が深まったことが表されていると読み取れる。とても巧みな表現に感じた。

また、表紙の裏の足跡は、猫の足跡のみだったのが、裏表紙の裏ではひよこの足跡が追加されている演出も、ありがちだが印象に残る。

文章は自然な語りで書かれている。特に気に入った文に、ニャンイがピヤキを生んだシーンで『なんと ニャンイの おなかから でてきたのは うんこ ではなく ひよこ でした』がある。
「うんこ」と「ひよこ」で韻を踏むなんて……。

〈キャラクター〉
猫のニャンイが生まれたてのたまごを食べる様子は、弱肉強食な自然の摂理でもあるが、物語として読むと少しグロテスクにも感じる。ただユーモアあるイラストであまり怖さは感じない。

ニャンイの絵は割と醜く描かれている。それでも可愛らしさもあり、キャラクターの行動に合った優れた絵だと思う。ちまたにあふれる「可愛い猫絵本」とは一線を画す魅力がある。

〈製本と出版〉
縦長の絵本。ニャンイの印象的なセリフが手書きのフォントで書かれているが、読みづらい箇所はない。

【評点】


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