語感の楽しさや伝える気持ち。言葉の持つ力を描いた絵本『ことばコレクター』

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【データ】
・作品名: ことばコレクター
・作者: 作/ピーター・レイノルズ、訳/なかがわちひろ(中川千尋)
・出版社: ほるぷ出版
・発売年月: 2022年5月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 32ページ
・サイズ: 縦21.5cm × 横23.5cm
・絵と文の比率: おおよそ 8:2 1ページ当たりの文字数は80字ほど
・対象年齢: 小学校2年~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: あり
・ルビの有無: 総ルビ
・分かち書きの有無: あり
・縦書き、横書き: 横書き

【作者】
ピーター・レイノルズは、アメリカの絵本作家・イラストレーター。他に『すてきなテーブル 』『ゆめみるハッピードリーマー 』などで知られる。
なかがわちひろ(中川千尋)は、作家、翻訳家。主な作品に、『おじいちゃんのねがいごと』『あるひくじらがやってきた』がある。

【内容紹介】
ジェロームが集めているのは、石でもカードでもなく、「ことば」。
響きがきれいだったり、声に出して読むと楽しくなる言葉、小鳥が歌っているような言葉を集めていく。様々な言葉をジェロームは夢中に集めていった。

【レビュー】
〈作品の主題〉
たくさん集めてスクラップしていたら、ある日、転んで全部ぐちゃぐちゃになってしまった。「あれ? でも、これ、あんがいおもしろいかも……」そう思ったジェロームは、誰も聞いたことがない詩を書き、歌をうたい始める。
語感の楽しさや、伝える気持ちなど言葉の持つ力を描いた絵本。

〈ストーリー〉
多くの絵本を好む読者は言葉の魅力を知っていたり、興味を持っているはずで、そんな読者にはこの作品はとても響くと思う。
主人公のジェロームは様々な言葉を集めるが、一人で集めるところから対話への手段へつながる。そしてありふれた言葉にこそ、大きな力があることに気づく。それは例えば友人を励ます「だいじょうぶ!」「どうしたの?」という声掛けだったり、「ありがとう」という感謝の言葉だったりする。
これは単純な言葉で魅力を伝える絵本のメタ表現にも感じる。またジェロームが言葉の力を学び成長する姿は、本や詩が好きな若い読者にいい影響を与えると思う。

言葉をテーマにしているだけあってか、深みのある終わりをし、解釈の魅力ある絵本となっている。
言葉の面白さを知ったジェロームは、集めた言葉を丘のてっぺんから放り投げる。たくさんの言葉が飛んでいき、ふもとでは子どもたちが、空から舞い降りる言葉を集める。
言葉をばらまく様子は、まるでお金をばらまいているようにも見えるが、この作品における「言葉」と「お金」は対極にあるもので、生きていく中で必要な、ものの“価値”を伝えている表現に感じた。

また、言葉を覚えることで対話の可能性を知ったジェロームと、言葉に対して興味を示す子どもたちは、成長を表しているようで、切なくも見える終わりだが、次へのステップといった前向きなものと解釈できる。

〈絵と文〉
絵はシンプルだが、言葉に惹かれていくジェロームの様子に読んでてこちらも興味がわいてくるような魅力がある。

文章はちょっと伝記絵本的な、説明部分が多い絵本のため、セリフが少ないのが少し気になったが、言葉を集めていく独特なスタイルが作品の魅力となっている。

〈キャラクター〉
主人公の“言葉コレクター”ジェロームは、とても好奇心旺盛で、様々なことに挑戦する楽しい人物で、読んでてワクワクするような魅力がある。

一つ気になったのは、鉛筆を右手で持って言葉を書いているシーンもあれば、左手で書いているシーンもあることだ。
別に主人公が両利きでもなんの問題もないし、珍しいタイプの人を自然に描いていることは大変意義があると思うが、おそらく実際は意図があるわけではなく、理由としては絵本を左から右へ読む上で、違和感なく読むためにシーンによって書き分けたのだと思う。

〈製本と出版〉
少し小さめサイズの絵本。
文章は総ルビで、ほとんどがひらがなの分かち書き絵本なのに、中盤以降に 振り仮名なしの漢字で書かれたステッカーが多く登場する。背景の看板等を装飾として漢字で書く絵本も多いが、この作品は集めた「ことば」があっての絵本で、それが作品の肝となっているため残念に感じた。集めた言葉はひらがなでよかったと思う。

【評点】


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