親子の会話で月経、生理を学ぶ性教育の絵本『げっけいのはなし いのちのはなし』

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【データ】
・作品名: げっけいのはなし いのちのはなし
・作者: 作/おおいしまな、絵/ふかいあずさ
・出版社: みらいパブリッシング
・発売年月: 2021年5月
・出版形態: 紙の本と電子書籍
・ページ数(作品部分): 31ページ
・サイズ: 縦21.5cm × 横15.5cm
・絵と文の比率: おおよそ 8:2 1ページ当たりの文字数は100字ほど
・対象年齢: 6歳~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: なし
・ルビの有無: ー
・分かち書きの有無: あり
・縦書き、横書き: 横書き

【作者】
おおいしまな(大石真那)は兵庫県在住の性教育講師。
ふかいあずさ(深井あずさ)は、東京都在住のイラストレーター、羊毛フェルト作家。

【内容紹介】
ぼくは、小3のたろう。お風呂で、おかあさんから血が出ていることに気づいた。お母さんは、血は怪我ではなく、女の人におこる「月経」で、月経のしくみや、どうやって赤ちゃんがおなかにくるのかなどを教えてくれた。
親子の会話を通して、月経を学ぶことができる絵本。
【レビュー】
〈作品の主題〉
小学校の授業で男女を分け、性教育をしているのは、今もなお続いていることだが、性の話は、女の子だけ、男の子だけが知っておけばいい話ではなく、誰にとっても必要な話で、互いを尊重することをタブー視せずに伝えている。

同級生の噂話やアダルトサイトではなく、性の知識を得ることはとても大事で、また、人によっては間違った知識を得たまま成長したり、タブー視された環境で育ったりで、月経について学ぶ機会がなかった場合もあるだろうから、大人の読者でも発見や、思考の変化はあるだろう。性の話を恥ずかしいものとしない、丁寧に作られたすべての人に大切な絵本。
〈ストーリー〉
物語は、お風呂で母親から血が出ていることに気づいた、語り手のたろうに、母親が月経について話すところから始まる。

そこから子宮、月経、卵子と精子、セックス、出産、そしてそれぞれの人生を自由に決める権利がある事へと話は移り変わっていく。どの話も自然な流れで説明的にならずに伝えられており、可愛らしいイラストもあって飽きずに読める。
 
多くのことを丁寧に分かりやすく解説しているが、性的合意についても描写があったらいいと感じた。ただ、避妊具や避妊薬、プライベートパーツ、産婦人科への受診など、あれもこれもと言えばきりが無くなるのが性教育で、全てがとても大切だが、ページの制約もある中、一冊の絵本でうまくまとめていると思う。

作中、月経は“女の人みんな”に起こる大切なことと説明しているが、この表現は少し引っかかる。なぜなら、トランスの男性やノンバイナリーの人も生理を経験するからだ。また、事情により子宮や生理のないシスジェンダー女性もいる。
〈絵と文〉
性の話をはっきりと、乳房、ワギナ、ペニスのイラスト付きで分かりやすく伝えている。セックスも遠回しにせず、タブー視せず絵でもきちんと描いているのは、とても大事な表現だと思う。

結婚も、子どもを育てるかどうかも、自由に決める権利があるとはっきりと伝えているシーンは非常に良い。様々な生き方があると説明する場面に、同性カップルがイラストで存在しているのもまた、大変優れていると感じた。ただ女性同士の絵のみで、男性カップルの絵も描くべきだろう。イラストを描くスペースの都合もあるだろうが、多様な人種や障害を持つ人のイラストもあればなお良かった。

〈キャラクター〉
たろうは妹のはなが月経の時、“からかうやつがいたら、ぶっ飛ばしてやる”となかなか頼もしい事を言う。妙に配慮された「正しい」絵本よりこのくらいのちょっとした暴力肯定シーンが描かれていたほうが、飽きずに読めるかもしれないが、妹を守る強い兄像といった描写で鼻につく。男の子は強くあるべきで、女性を守るべきといったジェンダーステレオタイプを肯定しているように思える。この題材の絵本にはあまりふさわしい表現とは言えない。

また、四人家族の着ている服の色も家族が集まるシーンでは、男性は青、女性はピンクと言ったステレオタイプな描写になっており、この辺りが丁寧に描けていればより良かったと思う。
〈製本と出版〉
語り手のたろうは小学三年生だが、文章は小学一年生以下の読者に向けた分かち書きが行われている。アンバランスなようだが、入学前の読者にも、小学生以上の読者にも広く読まれるべき価値ある作品で、特段奇妙な印象はない。

絵本の大きさは小さめ、文字の大きさはふつう。文字が背景の絵と重なる箇所があるが、見やすいように背景の色が薄く加工されている。

【評点】


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