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【データ】
・作品名: アレッポのキャットマン
・作者: 著/アイリーン・レイサム、カリーム・シャムシ・バシャ、絵/清水裕子、訳/安田菜津紀
・出版社: あかね書房
・発売年月: 2021年5月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 32ページ
・サイズ: 縦28cm
・絵と文の比率: おおよそ 8:2 1ページ当たりの文字数は100字ほど
・対象年齢: 小学校3年~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: あり
・ルビの有無: 総ルビ
・分かち書きの有無: なし
・縦書き、横書き: 横書き
【作者】
実在する『アレッポのキャットマン』に興味を持ったアイリーン・レイサムがダマスカス出身の児童文学作家カリーム・シャムシ・バシャに声をかけこの絵本が生まれた。
清水裕子はニューヨークを拠点にするイラストーター。作品は、性別、人種、などさまざまな問題に取り組んでいる。
訳者の安田菜津紀はフォトジャーナリスト。テレビやラジオで発信を続けながら、中東や東南アジアなどで難民問題、貧困などを取材している。
【内容紹介】
シリアの街、アレッポ在住のアラーは、内戦を目の当たりにする。大きな被害にあった街には多くの猫がさまよっていた。アラーが多くの猫を救い力強く立ち直る様子を描いた絵本。
【レビュー】
〈作品の主題〉
シリアの悲惨な内戦を遠い国の出来事と思わないために、市民の目線から、猫を救う救急救命士の様子を描いている。
作品内で主人公のアラーは、保護猫と共に強く立ち直るものの、当然ながらアレッポの街に戦争前のような活気はない。完全なハッピーエンドにならない絵本としてシリアへの関心を呼びかけている。
〈ストーリー〉
実話に基づく物語でもあり、作者の丹念な取材が伝わってくる。訳者もジャーナリストとして現地への取材も行っていることからか、翻訳絵本にありがちな妙な距離感もなく、シリアを遠い国と思わないための工夫がなされている。
救急救命士として救えなかった数え切れないほどの「さよなら」で挫折を経験したアラーが、同じ独りぼっちの猫を救うことで本人の心もあたたかくなる姿に読んでて優しい気持ちになれる。
SNSで拡散され多くの寄付が集まる様子も描かれている。遠く離れた国からも、関心を寄せ寄付をすることの大切さが自然と分かる。
〈絵と文〉
序盤の観光地のような美しい街並み、活気のある市場が無残にも崩壊する移り変わりは嘆かわしい。それだけに終盤の子どもたちの笑顔が弾ける様子はとても素敵だ。
しかし怪我を負い包帯を巻く子どもも多く描写されているし、当然アレッポの街は元通りになったわけではない。その辺りに今も地続きの話だと気付かされる。シリアについて考えるきっかけとしても、忘れないためにも必要な表現だと思う。
アレッポの店に並ぶピスタチオの実、干しイチジク、ジャスミンの石鹸。アラーが子どもたちに配る焼き菓子のマームール、バラゼック・クッキーなどの細かな描写は、異文化を身近に感じる表現だ。その小物使いが土地の魅力を表してて良い。
〈キャラクター〉
主人公のアラーは心優しい救急救命士。大切な街が戦場となり懸命に人々を救うが、助けられなかった人も多くいた。猫たちと子どもたちのために活動することで強く立ち直る。ただ、アラーに家族がいるのか、なぜ救急救命士になったのかなどの背景は一切書かれていない。
物語が始まってすぐに舞台のアレッポは戦場となる。もう少しアラーについての描写があってもいいと感じた。
〈製本と出版〉
『アレッポのキャットマン』というタイトルは、内容は予想しづらいが、安易に「100匹の猫を救った戦場の救命士」とかにしないのはいいと思った。
文字は小さめだが、読みづらい箇所はない。
【評点】
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