『麦畑のみはりばん』 - 畑にはだれも入れない、それがかかしの仕事…? -

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 【データ】
・作品名: 麦畑のみはりばん
・作者: 文/ベス・フェリー、絵/テリー・ファン、エリック・ファン、訳/よしいかずみ
・出版社: 化学同人
・発売年月: 2022年9月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 40ページ
・サイズ: 縦24cm × 横28.5cm
・絵と文の比率: おおよそ 9:1 1ページ当たりの文字数は50字ほど
・対象年齢: 小学校1年~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: あり
・ルビの有無: 総ルビ
・分かち書きの有無: あり
・縦書き、横書き: 横書き

【作者】
ベス・フェリーは、ニュージャージー州在住の絵本作家。他に『The Nice Dream Truc』がある。
テリー・ファン、エリック・ファンは兄弟。多くの子ども向けの本を執筆している。 他に『海とそらがであうばしょ』など。
よしいかずみは、東京都在住の翻訳家。主な作品に、『ことりのメルおっこちる』『夜をあるく』などで知られる。
【内容紹介】
かかしは、麦畑の見張り番。畑には、だれも入れない、それがかかしの仕事。そんなある日、カラスのひなが、上から落ちてきた。かかしは思わず、背中のさおをポキリと折って、ゆっくりかがんで、ひなをすくい上げた。かかしの干し草のむねで温まったひなは、元気を取り戻す。
【レビュー】
〈ストーリー〉
「みはりばん」のかかしの、ほとんど変わらない表情が切なく、儚い魅力がある。
ただじっと与えられた仕事をこなし続けるかかしには、現代社会を表しているようにも読めるかも。

落ちたカラスのひなを見て、「おもわず」動き出すかかしは、まさかの行動の割にあっさりとした表現だけど、だからこそ一歩を踏み指す、かかしの力強さを感じた。

また、カラスのひなが落ちた時、たんぽぽの綿毛が舞う。ひなとかかし、ふたりの命が動き出す出会いが、生きるために場所を求めて飛ぶたんぽぽの綿毛と重なるように描かれていて、とても秀逸な表現に感じた。

心を通わせるようになった動物たちとかかしの様子は、とても幸せそうで、ありがちな展開ではあるけど、読んでてほっとする気持ちになれる。
〈絵と文〉
絵は、季節の移り変わりが美しく、色づいていた麦が、冬には雪に埋もれ、春が来て青々と繁ったりする。また、ホタルや蝶が飛んだり、てんとう虫やイモムシが描かれていたりと、季節に応じたイラストが味わい深い。

一つ文章で気になったのは、冬が訪れた際の「雪のビロードをまとい」という文で、美しい表現だとは思うけれど、ちょっと分かりづらく感じた。
原文を読むと、
“Winter Whispers, Velvet snow. Scarecrow has no place to go.”
とある。
ビロード(ベルベット)は韻を踏む語なので、あえて訳さずに「雪がふりつもりました」、とか、なにか工夫するなら「雪のじゅうたんがしかれて」とかでよかったと思った。

〈キャラクター〉
麦畑を舞台に二年間が描かれた絵本で、四季の変化にかかしは耐えるが、それでもかかしの衣服はずっと変わらないため、それもまた一層、切なさや儚さを感じる絵本の魅力を、引き立てているように感じた。

かかしは、英語で「スケアクロウ(Scarecrow)」。
「scare」は、日本語で「こわがらせる」という意味で、「crow」は、「カラス」なので、カラスと仲良くなるかかしが描かれたこの絵本には、矛盾を突くような魅力がある。
動かないかかしが動き出して、カラスを救う様子も、与えられた役割に打ち勝つ力強さが描かれている。

〈製本と出版〉
横長の絵本。40ページで、一般的な絵本(32ページ)より少し長め。
表紙はボコボコとした紙質で、作品の雰囲気に合っている。

【評点】


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