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【データ】
・作品名: アグネスさんとわたし
・作者: 文、絵/ジュリー・フレット、訳/横山和江
・出版社: 岩波書店
・発売年月: 2022年12月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 49ページ
・サイズ: 縦26cm × 横26cm
・絵と文の比率: おおよそ 9:1 1ページ当たりの文字数は40字ほど
・対象年齢: 小学校1年~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: あり
・ルビの有無: 総ルビ
・分かち書きの有無: あり
・縦書き、横書き: 横書き
【作者】
ジュリー・フレットは、カナダの作家、イラストレーター。他に、『わたしたちだけのときは』がある。
横山和江は、埼玉県生まれの翻訳家。主な作品に、『いえのなかといえのそとで』『ジュリアンはマーメイド』など多数。
【内容紹介】
引っこし先で出会ったのは、おとなりのおばあさん、アグネスさん。アグネスさんは庭づくりや物づくりがすき。わたしは絵をかくのがすき。自然とアートを愛するふたりの友情が育まれていくようすを、季節のうつろいとともにえがいた美しい絵本。
【レビュー】
〈ストーリー〉
語り手の子、キャセレナが、母と二人で引っ越しをするところから始まる物語。季節ごとに分かれてエピソードが語られていて、春から始まり、一年後の春に物語は終わる。
引っ越しに不安を覚えたキャセレナが、引越し先のアグネスさんと出会い、交流を通して少しずつ前向きに、土地に馴染んでいく様子が描かれた絵本と言えるけど、特別ドラマチックな展開や、大きな事件があるわけでもなく、静かに時が進む。その物語の描き方がとても素敵で、読んでてほっとするような、しんみりとした美しさがある。
終盤で、体調をくずしたアグネスさんを気遣い、キャセレナがアグネスさんの寝る部屋の壁いっぱいに絵を貼るシーンも美しく、また他の絵本にありがちな、泣かせようとするチープな演出も無いため、非常に好感が持てる展開だった。「別れ」を描かない終わりもまた、心に残る。
季節を軸に描かれている絵本のため、場面は飛びながら、想像の余地を残しつつ、物語は展開していく。説明不足といった感じはなくて、読み進めながら読者の解釈で物語を埋めていくタイプの絵本で、その、説明しすぎずに曖昧な部分を残している程合が絶妙で、たいへん心地よく読める。
引っ越しの理由や、キャセレナに父がいない理由も描かれていないけれど、その辺りも、自由な解釈の余地があるし、多くの読者に当てはまるようにも読める。
〈絵と文〉
絵はシンプルだけど、静かな雰囲気の物語によく合っている。背景の天候が、キャセレナの心情とリンクしているように解釈できる。
絵に余白が多いところも、時間の経過と、その間のキャセレナの行動や心情の変化を想像できる。
文はカナダ先住民のクリー族である、キャセレナの話すクリー語の言葉や、車の中から見える“コヨーテ”、アグネスさんの住む家の周りに咲く“スノードロップ”の花など、平易な文章の中にアクセントになる言葉を用いた小物使いがうまく、読書の緩急になりながら読める。
またリズミカルに読める詩的な文体も心地よく読める。ちょっと物悲しい雰囲気を帯びていて、静かな物語が文章でも魅力的に表現されている感じ。
〈キャラクター〉
語り手のキャセレナは、カナダ先住民のクリー族で、クリー語が物語に効果的な意味を持っている。
アグネスさんの作るつぼは満月のようで、クリー族は10月の満月を「鳥のわたりの月」、4月の満月を「カエルの月」と表す。
自然豊かな絵本で、鳥やカエルのイラストも多く描かれており、物語は示唆に富む。
余談だけど、クリー族はスペリオル湖周辺に多く住んでいるため、冒頭の海は湖のことでもあるのかな、と思った。
〈製本と出版〉
50ページ近くある、割に長めの絵本。本の大きさは正方形で、文字の大きさ少し小さめ。文字が背景の絵と重なる箇所があるが、読みづらい部分はない。
【評点】
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