『カピバラがやってきた』 - アンコンシャス・バイアスと排外主義を描く -

 【データ】
・作品名: カピバラがやってきた
・作者: 作/アルフレド・ソデルギット、訳/あみのまきこ
・出版社: 岩崎書店
・発売年月: 2022年8月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 40ページ
・サイズ: 縦25.5cm × 横22.5cm
・絵と文の比率: おおよそ 9:1 1ページ当たりの文字数は30字ほど
・対象年齢: 6歳~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: なし
・ルビの有無: ー
・分かち書きの有無: あり
・縦書き、横書き: 横書き

【作者】
アルフレド・ソデルギットは、ウルグアイ生まれの絵本作家。他に『 Historias de magos y dragones(魔法使いと竜の物語)』『Soy un animal(わたしは動物)』(どちらも未邦訳)がある。

あみのまきこは、スペイン語訳者。他に、『名作短編で学ぶスペイン語』『ブニュエル、ロルカ、ダリ―果てしなき謎』がある。

【内容紹介】
安全で気持ちのいい川辺で、鳥小屋は住み心地がよく、ニワトリたちは、めいめいがやるべき仕事をわかっていた。食べ物はみんなにたっぷりあって、いつも同じ、のんびりした毎日。ところが、ある日、カピバラたちがやってきた。猟の季節になり、カピバラたちは、ハンターに狙われていた。
【レビュー】
〈作品の主題〉
ニワトリは、ヒヨコに対して、カピバラたちには絶対に近寄ってはいけないと伝える。しかし、犬に襲われるヒヨコを助けたカピバラの行動が、ニワトリたちのアンコンシャス・バイアス(無意識な偏見)を正し、ニワトリとカピバラは仲良く暮らすことになる。
そして、憎むべきは難民たちが逃げる要因となったものであると、物語は伝えている。
小さな子どもの偏見のない交流が、調和を生むことを描いた絵本。

〈ストーリー〉
ニワトリは、「あんぜんで きもちのいい かわべ」に住み、「やるべき しごと」をよく分かって、「のんびりした まいにち」を過ごしている。
「やるべき しごと」とは、たまごを産むことで、ときおり、仲間のニワトリが連れていかれることも意に介していない。描かれていることは非常に残酷なのに、優しく“絵本らしい”語り口が、皮肉になっている。

難民・移民との暮らしを連想させる絵本で、物語は、「すみごごこちよ」い場所で暮らすニワトリたちの元にカピバラがやって来るところから始まる。
ハンターたちに狙われるという、命の危険が迫るカピバラたちに、ニワトリは一方的にルールを押し付ける。そのルールとは、うるさくしない、陸に上がらない、食べ物に近寄らない、決まりに文句をつけないといった、とにかくカピバラたちを遠ざけたい一心のもので、まさに現実の排外主義の主張とよく似ている。
小さなヒヨコは、子カピバラの背中に乗り川に出て遊ぶが、親鳥に、カピバラには絶対近寄ってはいけない、飼いならされていない野生動物だからと注意される。
しかしその後、ヒヨコは「飼いならされている」はずの首輪付きの犬に襲われ、カピバラたちに助けてもらうことになる。ニワトリの主張が意味のない差別的な思考によるもので、物語を象徴するシーンになっている。

ここで描かれている、飼いならされていない野生動物だから、と注意するシーンがちょっと面白く、「飼いならされる」ことをよいこととしているニワトリが、権威に盲目的に服従する皮肉になっている。

また、子どもは純粋ながら時に差別や偏見をあらわにしてしまう場合もあるけれど、一方で、その純粋さが友好を生むと描かれている。

〈絵と文〉
絵は白黒を軸に、パートカラーように赤い色などが差し込まれている。
ニワトリが仲間やたまごを人間に取られたりするシーンなど、絵で解釈させる箇所も多く、また風向きが、「右から吹く風」から、「左から吹く風」へ変わるのも、意味があるように思える。
文章で気になったのは、序盤、にわとりたちの暮らしを伝えるシーンで、「とりごやは すみごこちよく めいめいが やるべき しごとを わかっていました」と書かれたページがある。「めいめいが(銘銘が)」は、分かち書き絵本にしては、ちょっと分かりづらいと思う。「それぞれが」とか、「おのおのが」とかでよかったのでは。

〈キャラクター〉
ニワトリにはセリフがあるが、カピバラにセリフがない。振り回される難民の表れのようで、切なさがあるし、カピバラたちの無言の優しさに癒される。

とてもよくできた寓話といった感じの絵本だが、一点気になったのは、“犬”が単なる悪役となっているところ。犬もまた置いてけぼりにされ、飢えて、虐待されている被害者でもあるため、ちょっと引っかかった。ただ、犬とも和解する物語だとちょっとごちゃつくので仕方ないかも。

〈製本と出版〉
漢字なしの絵本だが、フォントは映画字幕に似た特徴的なもので、ひらがな、カタカナを覚えたばかりの読者は少し苦労するかもしれない。ただ印象的な作品の雰囲気によく合っている。なお、セリフは丸みのあるフォントと区別されていて自然と分かりやすい。

【評点】


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