難民や移民への優しさをユーモアと軽快な文で描く『スーツケース』

 
書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします(試し読みあり)

【データ】
・作品名: スーツケース
・作者: 作/クリス・ネイラー・バレステロス、訳/くぼみよこ
・出版社: 化学同人
・発売年月: 2022年1月
・出版形態: 紙の本と電子書籍
・ページ数(作品部分): 30ページ
・サイズ: 縦27.5cm × 横27.5cm
・絵と文の比率: おおよそ 9:1 1ページ当たりの文字数は20字ほど
・対象年齢: 5歳~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: なし
・ルビの有無: ー
・分かち書きの有無: あり
・縦書き、横書き: 横書き

【作者】
クリス・ネイラー・バレステロスは、イギリス出身、フランス在住の絵本作家。他に『ひとりぼっちのもみの木』など。
くぼみよこ(久保美代子)は、大阪出身、滋賀在住の翻訳家。主な作品に、『ゆうきをだしてよ、ローガン! 』『14歳から考えたいレイシズム』『シルクロード』など多数。

【内容紹介】
ある日、みなれない「ふしぎな動物」がやってきた。引きずっているのは、おおきなスーツケースがたったひとつだけ。他の動物たちはみんな、スーツケースに何が入っているのかが気になって質問する。
ふしぎな動物は、カップにテーブルとイス、小っちゃな木の家が入っていると答える。疑問に思った動物たちはその動物が寝ている間に、スーツケースをこじ開けることにする。
【レビュー】
〈作品の主題〉
スーツケースを開けると壊れたカップと家が写った一枚の写真が入っていた。動物たちは責任を感じてカップを直し、写真の通りの家を建てる。

事情により家を離れなければならない人がいること、見慣れない人に対する親切心を伝える物語。

〈ストーリー〉
物語は難民や移民と、その人々を受け入れる者たちが連想される。難民とは戦争や差別、宗教や貧困などといった事情で、国を離れなければならなくなった人たちのことだが、スーツケースを持って見知らぬ土地にやってきた「ふしぎな動物」は、その苦労と、定住先を求める様子が見て取れる。1ページ目に書かれている、あんたんたる雨雲も、直接的な理由というよりかは比喩だろう。

スーツケースに入っていたカップと写真は、それしか持てずに逃れてきたと解釈できる。
写真をよく見ると写真を撮った別の生き物の影が写っている。ふしぎな動物とフォルムが似ているため、同種のようで、その者との別れや後の孤独が表現されているようだ。

スーツケースをぶっ壊し、中のカップを割った動物たちが自分勝手に作った、写真そっくりに建った家を、ふしぎな動物は快く受け入れる。
一連の流れはマジョリティ目線での「提供してあげる」感があるのは否めない。作中一番寛容なのは難民と重なるふしぎな動物であって、悪い意味での「道徳的」な、それでいいのか? という、空っぽな「優しい」終わり方が少し引っかかった。
〈絵と文〉
「ふしぎな動物」は青い見た目をしているのに対して、ほかの動物たちは赤い鳥、オレンジのキツネ、黄色いウサギ(っぽい動物)と、暖色系の色合いをしている。物珍しい来訪者という表現に加えて、暮らしの安心感や立場の違いも表していると解釈できる。
また、完成した家がカラフルなのは動物たちの友好を表しているようだ。

文章は軽快で、動物たちの不思議なやり取りは読んでてとても楽しい。
最序盤に書かれる、ふしぎな動物を表す「どろどろで、よろよろ。おどおど、とぼとぼ 歩いている」といった韻を踏んだ文は、絵本に不慣れな読者へ、物語の導入のきっかけとなる優しい表現に感じた。

〈キャラクター〉
変わった見た目の動物たちが奇妙な会話を繰り広げるシーンは、独特なユーモアがあって楽しく読める。また自然な語りが読んでて心地いい。

一方で、目つきの鋭いキツネが悪役的に相手を疑い、スーツケースをこじ開けることをたくらみ実行する様子は、ステレオタイプな描写に感じた。
〈製本と出版〉
文字の大きさは少し小さめ。ただ白い背景に書かれているため読みやすい。セリフの文字色が動物の色に応じた配色になっていて、誰の言葉か分かりやすい。

【評点】


【関連する絵本】