地球平面説から始まる教訓と風刺のディストピア『王さまのおうごんのひげ』

 
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【データ】
・作品名: 王さまのおうごんのひげ
・作者: 作/クラース・フェルプランケ、訳/岡野佳
・出版社: 化学同人
・発売年月: 2022年7月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 35ページ
・サイズ: 縦30.5cm × 横25cm
・絵と文の比率: おおよそ 8:2 1ページ当たりの文字数は50字ほど
・対象年齢: 小学校2年~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: あり
・ルビの有無: 総ルビ
・分かち書きの有無: あり
・縦書き、横書き: 横書き

【作者】
クラース・フェルプランケは、ベルギー生まれの絵本作家。他に、『アップルムース』がある。
岡野佳は、東京都在住の編集者、翻訳家。主な作品に、『海のてがみのゆうびんや』『ペンギンのこまりごと』などで知られる。

【内容紹介】
むかしむかし、まだ地球がホットケーキみたいにまっ平だと思われていたころ、美しいひげの王さまがいた。王さまはおうごんのひげをかわいがり、とんでもない法律を作る。それは、王さまのひげを絶対に切ってはいけないことと、王さま以外誰もひげを生やしてはいけないこと。
王さまのひげはどんどん伸び、国を出て、海や山をわたり、どこまでも伸びていく。
【レビュー】
〈作品の主題〉
ついに王さまのひげは世界をぐるりとまわって、出発地点のお城に戻ってきた。見張りの兵士があやしいひげを確認して、王さまに伝えると、王さまはひげを生やしている奴は、誰であろうとひげごとちょん切ってしまえと命令する。
教訓的な要素があり、風刺的な内容も含む物語で、王さまの暴政をユーモアたっぷりに描いた絵本。
〈ストーリー〉
ストーリーは、黄金の立派なひげを生やした王様の圧制政治を、ユーモアを持って描いたもので、軽いディストピア的な魅力のある絵本となっている。

地球平面説が信じられていた時代の物語で、地球が丸いということが物語のキーになっている。星の動きを研究した天文学者は、地球は丸いと王様に伝えるが、王様は笑いものにして、聞く耳を持たない。

伸びたひげが地球を一周し、兵士は愚直に王様の命令に従って、ひげと一緒に王様をちょん切ってしまう。作中では「ひげといっしょに 王さまも きえていた。」と読者のトラウマにならない程度に書かれているが、割と残酷な終わりをする。

科学をないがしろにした横暴な権力者が、無知を原因に自分の首を絞める展開は、当然どの時代にも当てはまる。教訓と風刺が多く含まれるため、現代の寓話といえる。残酷な終わりもまた、かつての寓話に近い。

〈絵と文〉
ひげを禁止にした王様の法律に従って、人々はひげを剃ることになるが、ブラシやサボテンのトゲまで剃ってしまったり、もくもくなひげを剃った結果、雲となり雨を降らす様子はコミカルで面白い。

文章は、地球が「ホットケーキみたいにまったいら」と思われていたとか、あごもほっぺたも「バターみたいに ツルツル スベスベ」とか、地球は「オレンジみたいにまるい」といった比喩があり、小さな工夫が楽しく読める。

〈キャラクター〉
王さまをちょん切った兵士は、正直に命令に従う愚直な兵士のように描かれているが、したたかな市民の復讐のようにも解釈できる。
ラストシーンにて、王さまのひげを掃除している一人の兵士が、少し薄笑いを浮かべているように描かれているのもいい。
〈製本と出版〉
大きなサイズの絵本。王さまのひげが世界を巡るのに合わせて、絵本を逆さに読むページがある。ありがちだが物語の展開に合わせた表現で、読書に緩急ができて楽しく読める。

表紙のタイトルにはルビがないが、作中は総ルビでどっちつかずな印象を受ける。

【評点】


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