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【データ】
・作品名: なみのむこうに
・作者: 作/ブリッタ・テッケントラップ、訳/三原泉
・出版社: BL出版
・発売年月: 2022年7月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 30ページ
・サイズ: 縦25cm × 横25cm
・絵と文の比率: おおよそ 9:1 1ページ当たりの文字数は60字ほど
・対象年齢: 小学校2年~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: あり
・ルビの有無: 総ルビ
・分かち書きの有無: あり
・縦書き、横書き: 横書き
【作者】
ブリッタ・テッケントラップは、ハンブルク生まれの絵本作家。主な作品に、『かえりみち』『いえがあるっていいね』などで知られる。
三原泉は、宮崎県生まれの翻訳家。他に『こうさぎたちのクリスマス』『ありがとう、アーモ!』など多数。
【内容紹介】
エラはひとりぼっちで小さなふねに乗り、深くて暗い海に浮かんでいる。海の中から「止まってはいけない、エラ」と、声がして、空に届くほど大きな波が、エラを取り囲むようにわき起こった。エラは進む勇気がなかったけれど、一羽の鳥がやってきて、「エラ、こわがらないで」と言った。
【レビュー】
〈作品の主題〉
様々な海の生き物たちの助けを借り、エラは勇気を取り戻し、新しい岸辺へたどり着く。そこにはエラと同じように小さなふねに乗る子どもがいて、エラはひとりぼっちではなかったことに気づく。
暗い海を舞台に、困難を乗り越える勇気を描き、優しく後押ししてくれる、不思議で力強さのある物語。
〈ストーリー〉
物語は主人公のエラが、たった一人で、暗い海にぽつんといるところから始まる。
そこで、海の中から、止まっていてはいけない、前に進んでいかなければならないと、声がする。エラは不安を抱えながら進み、波にもまれるが、様々な海の生き物たちがエラを導いてくれる。海を渡ることを人生の岐路に例えて、その障害を波に見立てているようだ。
悩みの解決には、一歩踏み出すことと、その勇気が重要で、“卵を割らずにオムレツは作れない”的な、“蒔かぬ種は生えぬ”的な、行動の重要性を説いて、結果として孤独を救うと示している。
誰でも生きていく中で、壁にぶつかることがあると思うが、そんな試練に直面したり、乗り越える難しさに苦慮している人に、寄り添い味方してくれる絵本。
ストーリーは少し難解だが、エラの死後の物語と解釈できる。物語の始まりでエラは真っ暗な海に一人ぼっちでいる。生き物たちの力を借り、勇気を得てエラは他の子どもたちが集まる島を見つける。
その島を作中では、「あたらしい岸べ」「おもってもいなかったほど うつくしい場所」「どんなことでも できるかもしれない場所」とまるで天国のように表している。
生き物たちに導かれ、死者が黄泉へ行くストーリーのようで、夜明けとともに明るい島でエラや他の子どもたちが楽しそうに過ごしている姿は、まるで天国にいる天使たちのようだ。
小さい子どもを失った家族に響く絵本かもしれない。
〈絵と文〉
導いてくれる海の生き物たちは、案内役となる白い鳥、波の乗り方をエラに教えるネズミイルカ、道が分かるように照らしてくれる何百というクラゲたち、美しい岸辺にエラを導くクジラと様々で、みな頼もしく美しく描かれている。
物語に合った不安と優しさを両立したようなイラストがとても素敵。
また、エラを励ます歌が聞こえるシーンがある。文章では、希望にあふれた歌でエラの目に涙が浮かんだとある。歌詞が書かれていないのは少し残念だけど、歌を表すイラストは幻想的で大変美しい。
絵で音楽を表現するのは難しいと思うが、見事に描かれていて引き込まれる。
一か所見開きで本を縦にして読むページがある。よくある表現方法だが迫力があるし読書の緩急にもなる。
〈キャラクター〉
暗めの絵が続き、少し怖い気持ちにもなる絵本だが、頼もしい海の生き物が助けてくれるようで、安心感もある。
一つ気になったのは役割語で、作中登場するクジラとエラが、○○よ、○○だわ、といった、女性的な役割語が使われている。この物語においてはあまり必要性を感じないし、ステレオタイプの強調に思えたので引っかかった。
〈製本と出版〉
正方形の絵本。文字の大きさはふつう。文字が背景の絵と重なる箇所があるが、読みづらい部分はない。
なお、21ページにある「あの声」のルビが「ごえ」と書かれているのは「こえ」誤りだろう。
岸辺を「岸べ」と書くといった、混ぜ書きがあるなど、漢字の基準が気になった。
当然絵本は教科書ではなく一つの芸術作品であるため、基準をもって漢字を使う必要はなく、どの言葉をひらがなで書き、漢字で書くかは裁量によるもので、文脈や読みやすさ、雰囲気などで選択されるが、「岸べ」と書く理由を読み取ることはできなかった。
ちなみに「辺」は小学四年生で習う漢字だが、作中では中学校卒業レベルの「帆」が使われている。
【評点】
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