動物たちが共に暮らす世界の心温まる絵本『ぼくがかわりにとどけるよ』

 
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【データ】
・作品名: ぼくがかわりにとどけるよ
・作者: 作/そのだえり
・出版社: 文溪堂
・発売年月: 2022年4月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 32ページ
・サイズ: 縦26.5cm × 横21cm
・絵と文の比率: おおよそ 8:2 1ページ当たりの文字数は60字ほど
・対象年齢: 5歳~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: なし
・ルビの有無: ー
・分かち書きの有無: あり
・縦書き、横書き: 横書き

【作者】
そのだえりは、東京都在住の絵本作家。主な作品に、『ねがいごと』『みならいサンタ』がある。

【内容紹介】
小さなねずみのドッチが、仕事を探しに町へやってきた。通りを歩いていると、クマの配達屋さんのゴロンが、体が大きすぎて小さなマンションに入れず、荷物を届けられずに困っていた。ドッチはおもわず「ぼくが届けましょうか?」と、声をかけ、クマのゴロンを手伝うことにした。
【レビュー】
〈作品の主題〉
配達がうまくいき、休んでいるドッチとゴロンの元に、きつねの宝石屋さんが走ってきた。あわてんぼうのやぎのふたりが、結婚指輪を忘れて式を始めてしまったらしい。ドッチとゴロンは大急ぎで指輪を届けることにする。

さまざまな動物たちが共に暮らす街で、体の大きさの違うふたりが、協力しながら、ひと助けをする物語で、明るく優しい心温まる絵本。

〈ストーリー〉
動物たちが平和に暮らす牧歌的な世界観が魅力的で、ヨーロッパ風の景観が美しい作品。小さな家に荷物を運べない、配達屋の大きなくまを、小さなねずみが助けるという、割とありがちな物語だが、イラストに物語を補強する様々な工夫が施されていて楽しく読める。

例えば、お店のドアには大きな動物用と小さな動物用のドアがあったり、宝石店でも指輪やネックレスを入れた、高さの異なる商品棚が描かれている。
また、牛乳瓶を運ぶトラクターを運転する牛がいたり、ラッコがボート店を営んでいたりと、この架空の動物たちの町が実在するかのような説得力がある。

結婚式をするのに指輪を忘れるという、おっちょこちょいなヤギの新婚夫婦は、序盤に慌てて衣装を買って走る様子が描かれていたり、ウェディングドレスには、「セール8000えん」とタグが付いたままになっていたり、終わりで「うっかりしょてん」を営んでいることが明かされたりと、たいへんほほえましく描かれている。
〈絵と文〉
丁寧に細緻に描かれた絵が魅力的な作品。架空の住所や商品名などが非常に細かく書かれていて、探す楽しさがある。
結婚式場を様々な角度から捉えなおし描く絵はとてもうまく、俯瞰で描いた絵や、小さなねずみのドッチの視点の絵は迫力がある。

ねずみのドッチが、旗飾りのロープからヤギのふたりの元へ飛び移るシーンがあるが、その時勢いのあまりドッチのかぶっていた帽子が落ちている。その後のイラストで帽子を拾うアリクイ(バクかも)が描かれている。
直接物語とは関係のない部分も丁寧に描かれていて発見する楽しさがある。

他にもモモンガは庭に生えるクローバーを瓶に活けていたりと、とてもわくわくするイラストで、生活を想像するように読める。

文章は非常に丁寧な言葉づかいで書かれている。子どもが理解できる表現、文の長さで、言葉がわかりやすく適切なため、よみ聞かせにも適していると思う。

〈キャラクター〉
飛躍した解釈かもしれないが、様々な動物たちが混在した世界だが、それぞれの動物たちはその種でまとまって暮らしている。結婚するふたりはヤギの夫婦で、背景に描かれている動物たちも、ハリネズミの一家だったり、カバや象の親子だったりする。
一方で、メインで描かれているのが、体の大きさの違うねずみのドッチと、クマのゴロンで、そのふたりが協力しながらひと助けをする物語なのは、属性によって分かれるような社会だけではなく、誰もが自由に分け隔てなく暮らせるような社会もあると示しているような、そのきっかけを描いているようにも感じた。

〈製本と出版〉
本の大きさはふつう。文字の大きさはふつう。フォントが教科書体のようで読みやすい。また、文字が背景の絵と重なる箇所がなく、とても読みやすい。

【評点】


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