迷子のクマの人形を救助するネズミたちの絵本『ぬいぐるみきゅうじょたい』

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【データ】
・作品名: ぬいぐるみきゅうじょたい
・作者: 文/ティエリー・ロブレヒト、絵/デイヴィッド・B・ドレイパー、訳/川野太郎
・出版社: 岩崎書店
・発売年月: 2022年3月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 28ページ
・サイズ: 縦28cm × 横23cm
・絵と文の比率: おおよそ 8:2 1ページ当たりの文字数は100字ほど
・対象年齢: 5歳~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: なし
・ルビの有無: ー
・分かち書きの有無: あり
・縦書き、横書き: 横書き

【作者】
ティエリー・ロブレヒトは、ブリュッセル生まれの絵本作家。他に『えほんからとびだしたオオカミ』『いじわるなないしょオバケ』がある。
デイヴィッド・B・ドレイパーはイラストレーター。他に『Mon ami』(未邦訳)など。
川野太郎は熊本生まれの翻訳家。主な作品に、『ぼくのカメはどこ?』『ノーザン・ライツ』などで知られる。

【内容紹介】
ぬいぐるみのクマくんは、雨が降る冷たい道で置いてきぼりになっていた。右腕が破けて、中身の綿も減っている。町をパトロールしていたネズミたちがクマくんを見つけ、ぬいぐるみ救助隊の本部へ連絡した。すると小さな救急車がやってきて、クマくんをぬいぐるみ病院へ連れていった。

【レビュー】
〈作品の主題〉
クマくんはぬいぐるみ病院で、ネズミのお医者さんに右腕を直してもらう。その後、ネズミたちのおとどけチームの車に乗り込み、持ち主の家を見つけ無事に再会する。
ネズミたちがチームとなり迷子のクマのぬいぐるみを救う物語で、とても温かみのある作品。人々に気づかれないうちにネズミのチームが一丸となって、困っているぬいぐるみを救助する展開は、想像力が刺激され魅力的。

〈ストーリー〉
迷子のぬいぐるみをネズミたちが救うというストーリーだが、煙突から出る雲(煙)を集めて綿として利用したり、流れ星が通った後の魔法の糸で縫い合わせたりと幻想的なシーンが多く描かれていて、合わない読者もいるかもしれないが、ファンタジーな魅力がある。

無償の奉仕をするネズミたちのチームは、救急隊員、綿を集める白雲チーム、手術をする医者や看護師、持ち主の家まで送るお届けチームなど、様々な役職が存在し、それぞれのネズミが生き生きと活躍する。
また、ネズミたちはレッカー車でぬいぐるみを吊り上げたり、ロープとフックで障害物を乗り換えたり、無線機で子どもたちの声を受信し持ち主の家を探したりと、あらゆるプロフェッショナルがクマくんを支援する。ひとりだと心許ないような小さなネズミたちが協力し合うことで、とても心強く、そしてかっこいい存在として表現されている。

ひとりひとりのネズミたちが自分の専門性を生かし、それぞれが歯車となり心を合わせて災難にあったクマくんを救う、善意をもって貢献する描写は、たった一人でなんでもこなすヒーロー的な存在とは違う「社会」を連想するシーンで他にない良さがある。

なお、ネズミたちの書き分けはないが、服装でそれぞれの役職が分かるように描かれている。

〈絵と文〉
小さなネズミたちの行動は小人の世界を覗いているようで、サイコロを踏み台にしたり、屋根裏を歩いたりするシーンは楽しい気持ちで読める。

救助隊本部でPC作業をしている「マウス」を持ったネズミや、屋根裏の隅っこで読書をする小さなクモ、クマくんの膝にできた布の破れが修復されていたりと、作中言及されていないが、小さな発見のある描写が多く微笑ましい。

文章は、ですます調で読みやすく平和的で温かみのある物語に合ったもので、読み聞かせにも適していると思う。

〈キャラクター〉
クマくんが家へ到着すると飼い猫がいる。猫を恐れるネズミと少しシニカルに協力する猫のシーンがとても魅力的。

クマくんはぬいぐるみであるため表情は乏しいが、置いてきぼりになったうつろなシーンから、修復され家に帰るまでに、だんだんと生き生きと変わっていく過程に読んでて元気づけられる。

〈製本と出版〉
文字の大きさはふつう。背景の絵と文字が重なる箇所があるが、読みづらい部分はない。

【評点】


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