絵本『色とりどりのぼくのつめ』 - ジェンダー表現の自由といじめ問題 -

 
書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします(試し読みあり)
【データ】
・作品名: 色とりどりのぼくのつめ
・作者: 文/アリシア・アコスタ、ルイス・アマヴィスカ、絵/ガスティ、訳/石井 睦美
・出版社: 光村教育図書
・発売年月: 2022年12月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 29ページ
・サイズ: 縦25.5cm × 横25.5cm
・絵と文の比率: おおよそ 9:1 1ページ当たりの文字数は80字ほど
・対象年齢: 6歳~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: あり
・ルビの有無: 総ルビ
・分かち書きの有無: あり
・縦書き、横書き: 横書き

【作者】
アリシア・アコスタは、スペインの児童文学作家。
ルイス・アマヴィスカは、スペインのビジュアルアーティスト。
ガスティは、スペインののイラストレーター。
石井睦美は作家、翻訳家。他に『おばけのキルト』『じゅんばんなんてきにしない』など多数。

【内容紹介】
ベンはマニキュアに夢中。「元気な色」を塗ると、色とりどりのごきげんなつめがみえて、ワクワクするから。ある日、ベンはつめをまっ赤にぬって、学校に行く。そしたら、男の子たちがよってきて、はやしたてた。「つめなんかぬっちゃって。女の子がするものだぞ」。
どうしてからかわれなきゃいけないのか、ベンにはちっとも分からなかった。

【レビュー】
〈ストーリー〉
ベンは自分がされたひどい出来事を、パパとママに相談する。いじめを受けたあと、つらくても塞ぎ込まず、大人に相談することの大切さが描かれていて、重要なメッセージに感じた。
悲しむベンを心配したパパは、ベンと同じようにマニキュアを塗る。温かい父親の行動に、読んでてほっとするような気持ちになる。

それでもベンは、またも男の子たちから意地の悪いことを言われ、休みの日しか、マニキュアを塗れなくなってしまう。
一週間が経ち、ベンの誕生日。月曜日だったためマニキュアを塗れないベンだったが、教室のドアを開けるとクラスのみんなと先生が、色とりどりに爪を塗り、誕生日を祝福してくれた。

そんなサプライズは感動的と言える一方で、クラスの子達の中にひどい言葉を言った子がいるのか分からないけど、先生も一緒になって、「いじめをサプライズで解決」といった形でいいのかな、と疑問に思った。
また、加害者の謝罪は描かれていない。ジェンダー表現の自由を伝える絵本ではあるが、いじめ問題の視点で見ると、かなり大雑把な感じで、気になる部分も多かった。

そして、ベンの飼い猫(と思われる猫)が教室にいる理由もよく分からない。サプライズはベンの空想の出来事といった解釈もちょっとむずかしい。
正直言って、いろいろと雑な絵本だなという感想を持った。
〈絵と文〉
絵は、ラフ画のようなイラストだけど、暖色系の色合いは味わい深く、物語の切なさと相乗効果があるような表現で素敵に思った。
ただ、半袖の子とマフラーをしている子が混在している点は、季節感があいまいでこれもまた雑に感じる。

文は、流れるような読みやすいもので、語り手に親しみが持てる。
子どもが理解できる表現、文の長さといった感じで、明瞭な内容で簡潔に描かれている。
また、よみ聞かせにも適していると思う。
〈キャラクター〉
傷ついたベンを助ける、マルガリータという素敵な子どもが描かれている。
マルガリータは、ベンを笑いながら囃し立てる悪役の男の子たちに、
「よけいなこと いうんじゃないわよ!」と、怒る。
強い口調で怒るマルガリータは素晴らしいが、ジェンダー表現や多様性を描いた絵本なのに、女性的な役割語が用いられるのはちょっと残念に感じた。

〈製本と出版〉
正方形の絵本。文字は全体的に読みやすい。また紙質がいい。

【評点】


【関連する絵本】