視点が変わる楽しさと身近な幸せを描いた絵本『ここは』

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【データ】
・作品名: ここは
・作者: 文/最果タヒ、絵/及川賢治(100%ORANGE)
・出版社: 河出書房新社
・発売年月: 2020年6月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 32ページ
・サイズ: 縦26cm
・絵と文の比率: おおよそ 9:1 1ページ当たりの文字数は15字ほど
・対象年齢: 4歳~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: なし
・ルビの有無: ー
・分かち書きの有無: あり
・縦書き、横書き: 横書き

【作者】
最果タヒは詩人、小説家。代表作に『グッドモーニング』『スパークした』など。
及川賢治は、イラストレーター、絵本作家。他に『かがみとチコリ』『まちがいまちにようこそ』などがある。

【内容紹介】
ここは、お母さんのひざの上。街の真ん中でもあるし、公園の近くでもある。 空の下でもある。星の表面でもある。そして温かい体のはしっこでもある。視点が変わる楽しさと、身近な幸せを描いた絵本。
【レビュー】 
〈作品の主題〉
視点がだんだん遠く変わっていくと、自分は大きな存在の一部に過ぎないと感じられる。一方で身近な場所には確かな幸せがある。壮大で規模の大きな絵と対比される慣れ親しんだ光景に心温まる。

聡明で心優しい読者を想定した様に描かれた文と絵は、安心して読めるし、部屋から街、地球へと移り変わっていく絵は、魅力的で教育的価値もある。
〈ストーリー〉
ただ視点が離れていくだけではなく、語り手の目線に戻る展開は飽きずに読める。読後感も心地よい。

青い風船が視点とともに浮かんでいったり、雨雲が移動したり、テレビで生中継されたロケットが、地球を描いたページで飛んでいたりと発見があるページも多くあり、時間の変化で読者の好奇心を引き出す工夫がなされている。繰り返し楽しんで読める。

壮大で規模の大きな絵は、読んでいてワクワクとした気持ちになれるし、対比されるように描かれた慣れ親しんだ光景は身近な幸せを感じ心温まる。

〈絵と文〉
文と絵が調和し進みが一致しているし、全体の内容と個々の表現がうまく調和している。文章も読みやすく、よみ聞かせにも適している。

語り手の家の隣には床屋があり、青と赤の縞模様が目立つため視点が離れても見つけやすくなっており、読みやすい様に工夫がされている。
〈キャラクター〉
視点は動くが、語り手は一定で読者が紛らわしく感じない様になっている。表情は素朴で親しみやすく書かれている。無理に親子の愛を描かない、割とあっさりとした絵で感動を押し売るように描いていないのもいい。

〈製本と出版〉
文字は大きく読みやすい。絵の上に文字が書かれているページもあるが、読みづらいと感じる箇所はない。

カタカナは「テレビ」のみで使用されているが、ひらがなにすると違和感があるだろうし、テレビはロケット発射の映像を映し、その後飛んでいるロケットが描かれているため、テレビの存在は作品を楽しくする重要な要素の一つで、軽々しく総ひらがなを優先するべきだとは思えない。

【評点】


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