目の見えない男性を支えた小学生のリレー『バスが来ましたよ』

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 【データ】
・作品名: バスが来ましたよ
・作者: 文/由美村嬉々、絵/松本春野
・出版社: アリス館
・発売年月: 2022年6月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 37ページ
・サイズ: 縦26.5cm × 横21.5cm
・絵と文の比率: おおよそ 8:2 1ページ当たりの文字数は80字ほど
・対象年齢: 小学校2年~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: あり
・ルビの有無: 総ルビ
・分かち書きの有無: なし
・縦書き、横書き: 横書き

【作者】
由美村嬉々は、三重県生まれの作家、編集者、絵本コーディネーター。他に、『にじいろのペンダント:国籍のないわたしたちのはなし』がある。
松本春野は、東京都生まれの画家、絵本作家。主な作品に、『Life(ライフ)』『あかちゃんがきた!』などで知られる。

【内容紹介】
病気で目が見えなくなったわたしは、それでも仕事をつづける決心をし、ひとりでバスにのり、仕事場に通うことにした。ある朝、バス停に立っていると「バスが来ましたよ」と小学生の女の子が声をかけてくれて、バスに乗る手伝いをしてくれた。地元の小学生に助けられながら、バスに乗り通勤する“わたし”の物語。
【レビュー】
〈作品の主題〉
障害を持った男性と彼を支える子どもたちの物語。
いつも「バスが来ましたよ」の声をかけてくれたさきちゃんは小学校を卒業するが、親切のバトンは他の子たちに受け継がれていく。
目の病気で全盲になった男性の実話を元にした作品で、障害をもった人を“他者”とみなさず支えあうことの美しさを描いた絵本。

〈ストーリー〉
温かみのある平和な物語。目の不自由な人への心づかいと受け取る気持ちが丁寧に描かれている。
割とこういった絵本では、子どもを語り手にして物語を進行するものが多いが、当事者の視点で描かれた作品で、読んでいて子どもたちの無償の優しさに心打たれる気持ちになる。

実話をもとにした物語で、舞台もまた実在する場所のようだが、作中には、「小学校はおりて右、市役所は左にあります」とか、“わたし”が初めて一人でバスに乗る日が、夏の日の「月曜日」と記されていたりと、現実感が増す小さな情報がさらっと記されていて、物語を補強しているように感じた。

特にラストシーンが素敵で、“わたし”を案内した少女がとても晴れやかな表情で桜の花を眺めるイラストが描かれている。
親切を受ける側だけでなく、親切をした側もまたさわやかな心持ちになると表現されていて、非常に美しく感じた。
〈絵と文〉
イラストもまた丁寧に描かれた作品で、季節に合わせて登場人物の装いも変わる。語り手の“わたし”も、ジャケットを着ていたり、ベストを着ていたりとシーンによって服装は異なるが、一方でいつも緑色の服を着ている。緑の服のおかげで人が集まるバスの中のイラストでも、どの人物が語り手かがすぐに分かるように配慮されている。小さな工夫で絵本が読みやすくなっている。

〈キャラクター〉
語り手の“わたし”は、60歳の定年まで10年以上もの間、毎日のように子どもたちに支えてもらったと書かれているが、10年の月日が描かれたイラストでは、少しずつ白髪が増えていっている。
微妙な変化だが、月日の経過が表現されていて、子どもたちの優しさのリレーの長さが伝わる。

〈製本と出版〉
本の大きさはふつう。字の大きさはふつう。文字が背景の絵と重なる箇所があるが、特に読みづらい部分はない。

【評点】


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