『じぶんのきもち みんなのきもち』 - マイクロアグレッションに対する子どもたちの主張 -

 
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【データ】
・作品名: じぶんのきもち みんなのきもち
・作者: 作/サラ・オレアリー、絵/チィン・レン、訳/おおつかのりこ
・出版社: あかね書房
・発売年月: 2022年9月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 31ページ
・サイズ: 縦26cm × 横22cm
・絵と文の比率: おおよそ 9:1 1ページ当たりの文字数は30字ほど
・対象年齢: 6歳~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: なし
・ルビの有無: ー
・分かち書きの有無: あり
・縦書き、横書き: 横書き

【作者】
サラ・オレアリーは、カナダの作家。他に『わたしのかぞく みんなのかぞく』『サディがいるよ』がある。

チィン・レンは、トロント在住のイラストレーター。他に『いってきます』、『わたしのかぞく みんなのかぞく』で知られる。

おおつかのりこは、福島県生まれの作家、翻訳家。主な作品に『100歳ランナーの物語 夢をあきらめなかったファウジャ』『くらやみきんしの国』など。

【内容紹介】
転校して初めて学校に行くと、「おんなか、おとこか」って聞かれた。でも、それって、「どっちでもいいじゃん!」。別の子は、「どうして、ほんばかりよんでるの?」って聞かれるらしい。ある子は、「なんで、そんなにちびなの?」って聞かれる。たくさんの子どもたちの「きいて!」が集まった絵本。

【レビュー】
〈作品の主題〉
同じ作家、イラストレーター、訳者による絵本、『わたしのかぞく みんなのかぞく』と、多様性や、子どもたちが自分の思いを伝えることなど、続編ではないけれどテーマは似ている。
ただ、描き方は異なっていて、多様な家族のかたちを描いた『わたしのかぞく みんなのかぞく』に対して、『じぶんのきもち みんなのきもち』は、個人に焦点を当てて、より自分自身の主張が描かれている感じで、姉妹本のようでもあるけど、それぞれに独立した、異なる魅力がある。
〈ストーリー〉
物語は、転校したばかりで学校に馴染めるか不安な子が、突然「おんなか、おとこか」と聞かれるところから始まる。
それに対してその子は、「どっちでもいいじゃん!」と、堂々と返す。すると、次々に人が集まってきて、わたしは、ぼくは、と自分がよく聞かれる、うんざりした質問を教えてくれる。

それは、どこの国の人だ? とか、入院中の妹がいる子に、どうして生まれつき人と違うの? とかのマイクロアグレッション(何気ない日常で現れる偏見や差別に基づく言動のこと)で、それに対し子どもたちは、ここが私の国だ、とか、だれもがみんな違っているといった感じで前向きに主張する。

ひとりひとりが、わたしの話を聞いて、と自発的に話し始める様子は、力強く勇気をもらえる。さまざまな立場の子どもが次々に集まってきて、増えていくため、読んでて、まるで自分もその一員になれるような、温かく受け入れてくれるような気持ちにもなれる。みんなが相手の目を見て、話を聞く様子もまたとても温かい気持ちで読める。

この絵本の導入で描かれているのは転校のようだけど、新しい環境に不安を覚える人にとても適した作品で、読むと勇気がわいてくると思うし、知り合ったばかりの相手にも、親切に接せられるような優しい気持ちになれると思う。

集まる子どもたちの主張は、“こんな嫌なことを聞かれる”といった話から、“わたしにこう質問して”、へと自然に移行する。
そして、語り手の子は、何を聞かれたらみんなが嬉しいかを想像する。読んでて自分もこんな考え方になれたらと思えるような、心が洗われるような読後感があった。
〈絵と文〉
絵は、「なにが できるかを きいて! なにが できないかじゃなくて」と主張する子が、文章で説明はないけど、義足だったりと、絵を読み解く魅力もある。同時に、そのスティグマともなる特性に、子どもたちが言及しないことで、温かみのあるシーンともなっている。

また、語り手が、集まった子どもたちと一緒に遊ぶために投げたボールは、“地球”によく似た青いボールで、多様性と受容が描かれた絵本を表すものと解釈できる。

文章は、相手を気遣うことの大切さが描かれている絵本だけど、読者を縮こまらせるような、配慮を押し付けるような感じにならない、自然な会話で成り立っている。
言葉の使い方次第で、相手を傷つけてしまうこともあるけど、思いやりで楽しい出会いが待っていると伝わる。

〈キャラクター〉
一つ気になったのは、他の子の目は小さな黒丸で描かれているのに、アジア系の子の目だけを線でつり目に描いているところ。
絵を描いたチィン・レンもアジア系の作家だし、つり目に描くことも多様な人々が集まる中での個性を描くひとつの方法で、問題がないようにも思えるけれど、ただ、ステレオタイプの問題点を描いている絵本で、それを強調するイラストはちょっと引っかかった。

なお、当サイトの、アジア系とつり目の描き方についての考えは、こちらのページで詳しく書いています。→多様な人々を描いた絵本で、アジア系のみ切れ長のつり目に描くイラストは問題か
〈製本と出版〉
絵本のタイトルは、『じぶんのきもち みんなのきもち』で、上記したように、『わたしのかぞく みんなのかぞく』という、同一作家の姉妹本的な絵本であるけど、前作は「わたしの……」なのに、この作品を「じぶんの……」としたのは、おそらく「わたし」だと語り手のジェンダーを決めるような感じになるのを嫌ったんだと思う。
日本語の一人称は、特に子どもだと「わたし」か「ぼく」かで、性別が決められて読まれてしまうことが多い。「おんなか、おとこか」と聞かれて、「どっちでもいいじゃん!」と返す子どもは、一人称がうまく書かれていなくて、クィアな翻訳絵本における表現の工夫を感じた。

本の大きさはふつう。字の大きさは少し小さめ。文字が背景の絵と重なる箇所があるが、読みづらい部分はない。

【評点】


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