Tweet
・作品名: いってきます
・作者: 作/エミール・シェール、絵/チィン・レン、訳/野坂悦子
・出版社: 化学同人
・発売年月: 2021年10月
・出版形態: 紙の本と電子書籍
・ページ数(作品部分): 22ページ
・サイズ: 縦22.5cm × 横27.5cm
・絵と文の比率: おおよそ 9:1 1ページ当たりの文字数は30字ほど
・対象年齢: 6歳~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: なし
・ルビの有無: ー
・分かち書きの有無: あり
・縦書き、横書き: 横書き
【作者】
エミール・シェールトロント在住の作家。他に『ハンナのかばん』など。
チィン・レンはトロント在住のイラストレーター。他に『Me on the Map』がある。
野坂悦子は神奈川県在住の翻訳家、作家。主な作品に、『だれがいちばん?がんばれ、ヘルマン!』『ぼくといっしょに』など多数。
【内容紹介】
母親となかなか一緒にいる時間がないスキップは、毎日メモを書いて気持ちを伝えあう。サマーキャンプに行くことになったスキップだが、「キャンプなんて、いかない。ぜったいにイヤ!」とメモに書く。スキップがママとはなれて、はじめてのキャンプにいけるまでを描いた作品。
【レビュー】
〈作品の主題〉
サマーキャンプに行きたくない子どもと母親の物語。セリフが一切ない絵本で親子の付箋でのやり取りで物語は進む。独特の温かみと切なさがある作品で、ほかにない魅力がある。
〈ストーリー〉
文は付箋のみの進行のため説明不足に感じるシーンもあるが、読みながら前後を補完する楽しさがある。
親子にはもっときちんとしたコミュニケーションが必要などと言うのは簡単だが、仕事が忙しくなかなか時間を取れない親子は多くいるだろうし、描かれているコインランドリーの描写などは貧困や格差を表しているようだ。
なぜ二人がメモでやり取りしているのか明確には描かれていないが、シングルマザーで忙しい生活の中でのコミュニケーションなのだろう。シングルマザーを応援する物語でもある。
子どもにとって親(保護者)と離れ離れになることは非常に怖いことで、そのキャンプを嫌がる様子は納得できる。子どもが、母親も過去に同じようにキャンプに行くことを嫌がっていたことを、祖母に教わり勇気をもらうシーンに、読んでてこちらも勇気をもらえ前向きな気持ちになれる。
〈絵と文〉
作中カレンダーが描かれているが、そこに「ばあばが どようびに うちにきます」と書かれている。しかし実際に祖母が来るのは日曜日で矛盾がある。気になって原文を読むと“next week”と書かれているため、これは翻訳のミスだろう。
また、カレンダーには、「ばあばのでんち かいにいく」とも書かれている。しかし原文では祖母に関する文字はなく“Hearing aid battery”(補聴器の電池)とだけ書いてある。この補聴器の電池を祖母の電池と決めつけた訳は極めて軽率だ。
なぜならこれは子どものスキップが難聴であることの示唆とも読め、付箋でのやり取りも難聴を理由に始めたことと解釈できる。またスキップがヘアカットをし短く切られた髪を憂えているシーンがあるのも、補聴器を見られたくないことが理由と考えられる。
漢字なしの絵本のため「ほちょうき」とひらがなで書く違和感を避けたのか、子どもの読者には伝わりづらいと考えたのか分からないが、解釈の幅を狭め、作品の価値を下げる訳で非常に残念に思った。
絵は温かみのあるもので、日々の移り変わりの慌ただしさのようなものが表現されている。
付箋を通して思いを伝え合う親子の物語で、誰が書いたメッセージか一見分かりづらいが、手書きフォントの文字の書きぶりの慣れ不慣れで親子のどちらが書いたかが分かる。
〈キャラクター〉
スキップは表紙の裏(袖)の説明によると娘だが、作中では性別は明記されてなく男の子のようにも見える。わざわざ性別を限定しなくてもよかったと思う。
子の性別がはっきりしないことに加え、祖母、母、子、三世代の人種もあいまいに描かれているのは、多様な家族の形を表しているようでとてもいい表現に感じた。
飼い猫が多くのページに描かれている。ありがちだが一人きりの時間が多いスキップを見守り、孤独を救うようにも感じるし、探す楽しさもある。
〈製本と出版〉
横長の絵本。手書きのフォントだが読みづらくはない。
【評点】
【関連する絵本】
Tweet