日常にある小さいけれど確かな幸せ『かみはこんなに くちゃくちゃだけど』

 
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【データ】
・作品名: かみはこんなに くちゃくちゃだけど
・作者: 作/ヨシタケシンスケ
・出版社: 白泉社
・発売年月: 2022年4月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 64ページ
・サイズ: 縦15cm × 横15cm
・絵と文の比率: おおよそ 9:1 1ページ当たりの文字数は20字ほど
・対象年齢: 小学校2年~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: あり
・ルビの有無: 総ルビ
・分かち書きの有無: なし
・縦書き、横書き: 横書き

【作者】
ヨシタケシンスケは、神奈川県生まれの絵本作家。他に『あんなにあんなに』『あきらがあけてあげるから』などで知られる。

【内容紹介】
「いつか、かしゅになりたいの。かみはこんなにくちゃくちゃだけど」髪の毛がくちゃくちゃの女の子は、歌手の写真を見ながら、そう考える。
「いま、すきなひとがいるの。かかとは、こんなにがさがさだけど」女性は、ガサガサになっている自分のかかとを見ながら、そう考える。
【レビュー】
〈作品の主題〉
「いつか かしゅに なりたいの」→「かみは こんなに くちゃくちゃだけど」
「きょうは れいぞうこに プリンがはいっているの」→「せけんは くらい ニュースで いっぱいだけど」……。
といった流れで、左ページにポジティブなことが描かれ、右ページにネガティブなことが描かれている、繰り返し表現の絵本。
日常にある小さいけれど確かな幸せと同時に、日常で感じたふとした悲しみが表現されている。一種の哀愁に似た、切なさが魅力的な作品。

〈ストーリー〉
左ページに描かれているのは、コンプレックスだったり、少し重い現実だったりするが、そればかりではなく、別に大して気にしなくてもいいような些細なことも含まれているため、共感できる悩みも、ちっぽけなもののように感じられる。読んでいて背中をそっと押してくれるような温かさもある。

将来の希望やうれしい発見が描かれたのち、否定的だったり、消極的な出来事が倒置されて描かれているため、なんだかちょっと、もの悲しい気持ちになりながらも、カタルシスが感じられる。

一方で、作品の終わりでは、始まりに描かれていてタイトルにもなっている「かみは こんなに くちゃくちゃだけど」のシーンが反転し、「かみは こんなに くちゃくちゃだけど」→「いつか かしゅに なりたいの」と描かれる。
この反転があることで、描かれている多くの悩みは、一見無関係なことを想像したり行動することで、快方に向かったり解決可能だったりすると表されている。
そして、絵本を“逆から読み直す”ことで、とても前向きで力強い作品に読めると示されている。
〈絵と文〉
絵は、シンプルだけど目や口の描き方で感情が伝わるような、とても親しみやすいイラストで大変魅力がある。どの登場人物も表情豊かに描かれていて、ちょっと現実的なしんどいシーンでも、ユーモアがある描き方で楽しく読めたり、逆に切なさが強調されるような、儚く美しいシーンもある。

文章はひとつのパターンのようで、「まちは こわれてしまったけど」といったSFを連想する文もあったり、ページによって少しひねりがあったりして、飽きずに読める。
また、シーンによって後半のフレーズが「○○けど」と「○○けれど」で使い分けされている。決まった形式に無理に嵌めるより、文脈の違和感のなさや、言葉のリズムを重視するスタイルにしていて、その読書の引っ掛かりをなくす小さな工夫がとてもよく感じた。
〈キャラクター〉
社会人の悩みも多く、子どもの読者を主な対象とした絵本とは少し異なるが、老若男女問わず描かれているし、特別専門的な言葉もないので広い年齢層で楽しめると思う。当サイトでの対象年齢は、小学校2年~とした。

一方で、描かれている子どもたちは、“押したいボタンがあるが、まだ背が小さくて押せない”とか、“行きたい場所があるが、まだひとりじゃこわい”といった感じの、等身大というよりかは、大人が想像する理想的なかわいい子ども像という描き方で、ちょっとステレオタイプな印象を受けた。

〈製本と出版〉
正方形で、とても小さいサイズの絵本。(縦15cm × 横15cm)
文章は全て手書きの文字だが、読みづらい箇所もなく、温かみのある作品の雰囲気を形作っている。

【評点】


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