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【データ】
・作品名: はるのひ
・作者: 作、絵/小池アミイゴ
・出版社: 徳間書店
・発売年月: 2021年2月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 32ページ
・サイズ: 縦31cm
・絵と文の比率: おおよそ 9:1 1ページ当たりの文字数は100字ほど
・対象年齢: 6歳~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: なし
・ルビの有無: ー
・分かち書きの有無: あり
・縦書き、横書き: 横書き
【作者】
小池アミイゴは群馬県生まれの作家。他に『うーこのてがみ 水曜日郵便局』『かぜひいた…』などがある。
【内容紹介】
少年ことくんが、畑で父の手伝いをしていると、森の奥に煙が上るのが見えた。気になったことくんは父に断り一人で煙を見に行くことにした。焚き火の元についたが、いつしか暗くなり冷たい風が吹いた。ことくんが大きな声で父を呼ぶと森の中から父があらわれた。
【レビュー】
〈作品の主題〉
子供の好奇心と言い表せないような不安感、そして親子の情愛を描いた絵本。
好奇心旺盛な子が迷子になってしまう絵本は割とあるが、この絵本は俯瞰して見ると事件らしい事件は起きていない。ことくんは、常に父に呼びかけながら森を抜ける。父親からしてみれば特に子とはぐれた印象もないだろう。その辺りにこの絵本の魅力がある。
一度どこかで経験したことのあるような記憶の1ページを呼び起こす、一見事件性はないが、子どもにとっては大変大事な心のざわめきが描かれている。
〈ストーリー〉
ことくんは煙を目指し、段々畑を降りて、田んぼを越え、菜の花畑を通り、森を抜けるが、その度に父親に「おーい」と呼びかける。父親がその声に同じく「おーい」と応じるが、その声を聞いてことくんは煙に向かい走り始める。不安と安心が交互する表現は、他の絵本によくある繰り返しとは一味違う。
好奇心と不安感が表裏一体で読後感は、芥川龍之介の『トロッコ』に似ている。作品も多少似ていて、トロッコもまた好奇心を持って遠出した少年が、大きな不安を抱えながら家族のもとに帰る物語だ。共通しているのは、味わい深い誰しもが体験したことのあるような切ない記憶が呼び起こされるものだ。『はるのひ』というタイトルもまた、そんな印象的な過去のとある日といった意味を持つと解釈できる。
〈絵と文〉
ことくんの気持ちを表すような色使いで描かれた絵はとても良い。ことくんの目指す煙の元となる焚き火は、到着しても明確に描かれていないし、正直その絵が焚き火なのかも分かりづらいが、この絵本が達成感を主とした冒険ではなく、心情をテーマにしたものであることの現れだろう。
文章は擬音語を多く用いている。ありがちだが読んでいて楽しい。
一つ気になったのはカタカナの使い方で、文中で登場するカタカナは、森にいた『カラス』とその鳴き声である『ガー グアー! ガー グアー!』のみだ。他は擬音語であっても全てひらがなでかつ、分かち書きで書かれている。『カラス』をひらがなで書くのは不自然とはいえ、通常カタカナで表記されるズボンでさえ『ずぼん』と記載しているのだから、総ひらがなを徹底したほうが広く共有される絵本になったかと思う。
ただ一方で、森にたった一人で入り、そこで出会った鳥の恐怖を、カタカナの持つ強い印象で際立たせているとも読める。
〈キャラクター〉
寡黙で優しい父親は、いつも遠くから見守ってくれるような安心感のある頼りがいのある父親だ。ただ少し紋切り型にも感じられる。
〈製本と出版〉
文字の大きさは普通。絵の上に黒もしくは白の字を載せる形式のため、背景の色によっては、読みづらいと感じる部分がある。
【評点】
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