動物への優しさと自然保護を描いた作品『リィーヤとトラ』

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【データ】
・作品名: リィーヤとトラ
・作者: 文/アンナ・フェドゥロヴァ、絵/ダリヤ・ベクレメシェヴァ、訳/まきのはらようこ
・出版社: カランダーシ
・発売年月: 2021年11月
・出版形態: 紙の本
・ページ数(作品部分): 31ページ
・サイズ: 縦24cm × 横26cm
・絵と文の比率: おおよそ 7:3 1ページ当たりの文字数は200字ほど
・対象年齢: 小学校1年~
・カタカナの有無: あり
・漢字の有無: あり
・ルビの有無: ルビなし
・分かち書きの有無: なし
・縦書き、横書き: 横書き

【作者】
アンナ・フェドゥロヴァは、児童書作家、教育者。
ダリヤ・ベクレメシェヴァは、絵本画家。
まきのはらようこは翻訳家。他に、『セリョージャとあそぼう!』『わいわいきのこのおいわいかい』がある。

【内容紹介】
小さな女の子、リィーヤは、森林監視員として働く父と、タイガとよばれる森で暮らしていた。父が森の中へ仕事へ出かけると、動物と会話ができるリィーヤは、ある日、初めて見る大きな生き物に出会う。その生き物は、タイガの誇り高き主と呼ばれているトラだった。

【レビュー】
〈作品の主題〉
幼いリィーヤだが、とても賢く描かれている。今まで出会ったことのないトラに対し、物怖じせず議論を交わす。トラに鋭く睨まれ、恐ろしくて動けなくなるリィーヤだが、その後は罠で動けなくなったトラを、てこの要領で救出する。聡明で心優しい読者を想定して描かれた絵本だ。

また、リィーヤは、魚の網に引っかかってしまったシノリガモを助けようとするが、足を滑らせ川に落ちてしまう。危機的な状況だったが、近くにいたトラに助けてもらう。お互いにピンチを助けることから友情が生まれる。

恐怖を克服する勇気、動物に対する優しさと愛、そして、自然保護の重要性が描かれている。

〈ストーリー〉
堂々としておごそかで、独特な圧力のある森の支配者であるトラは、リィーヤと互いに助け合うことから、忠実で愛情深い友人へと変わる。その過程が、割とありがちな展開ではあるものの、迫力のある絵のおかげで楽しく読める。

物語には、密猟者の罠と置き去りにされた魚の網が登場する。これらは物語のキーともなりながら、動物たちを痛めつける様子が描かれ、現状ある森林における悪しきビジネスの問題点と、自然保護の重要性という大切なメッセージであり、少女とトラの友情のストーリーにうまく溶け込まれている。 

〈絵と文〉
動物の特徴をよく捉えた切り絵のような絵は、とても美しく魅力的。特に川が舞台の一連のシーンは迫力がある。

文章はあまり平易とは言えないが、小学校低学年でも、読書に慣れている子なら問題ないだろう。

一方気になったのは、作中、森にいる動物たちを紹介する場面で書かれている、“ヘラジカやシカ”、“リスやシマリス”といった表現だ。シカやリスというのは総称であり、ヘラジカやシマリスはその分類である。正直言って、分かりづらいし雑な文章に感じる。

〈キャラクター〉
動物や鳥の言葉を理解し、優しく動物に寄り添うリィーヤは、繊細さと誠実さがあり、非常に魅力的なキャラクターである。

またトラを表す描写で、音をたてずに静かに歩みを進める、などの細部の丁寧な描写が恐怖とリアリティを感じさせる。

一方、森林監視員として働く父親はほとんど物語に登場しない。父親の教えがリィーヤの行動の糧になっているという描写はあるものの、トラと触れ合うという危険極まりない状況の娘を見ても、特に大きな反応を示さない。猟銃を構えるまではしないでも、なにか物語の起伏になる存在にはなってほしかった。

〈製本と出版〉
小学一年生で習う漢字が使用され、それ以外の字はひらがなで表されている絵本だが、分かち書きが行われていない文のため、非常に読みづらい。

分かち書きとは、語と語や文節ごとに空白を入れる書き方だが、一年生以下の読者に向ける絵本では、大抵の場合行われる。分かち書きが行われる理由は、ひらがなばかりが羅列された文は、どこで区切ればいいのか分かりづらいからだ。多くの読者のためにもう少し工夫してほしかった。

また、一切のルビがないため、この絵本が対象にした年齢が、ある意味、小学一年生限定のようになっている。なぜなら小学二年生以上も対象にしているならば、もっと多くの漢字を使用した方が読みやすいし、一年生未満の読者に向けるなら、ルビを振らないと読めない読者が多いからだ。

【評点】


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